トランプの気まぐれではない米国のグリーンランド所有欲
ちなみに米国がグリーンランドを欲するのは、トランプ政権になってからの気まぐれではなく、実は150年ほど前から繰り返し表明されてきた米国の外交戦略の一つであり、それは1917年にバージン諸島をデンマークから買い取った成功体験(この際はドイツのUボートヘの対抗のための拠点として購入)に基づく要請で、アメリカはこの取引を通じて、「北欧諸国(デンマーク)は、維持コストが高い自国での防衛が困難な遠隔の領土を、戦略的価値と引き換えに売却する可能性がある」という“学習”を積み上げたことが背景にあります。
実際に第2次世界大戦後の1946年に当時のトルーマン大統領がデンマークに対して「1億ドルでグリーンランドを購入したい」旨打診していますし(デンマークは拒否)、その後も冷戦期の対ロ戦略の一環として、アメリカによるグリーンランドの統治というアイデアが何度も出てきています。
NATO(北大西洋条約機構)の成熟によって欧米による集団安全保障体制の下、グリーンランドを領有せずともロシアからの脅威に備えることができる“協調”が出来たため、2019年のトランプ大統領による“購入意思”の再表明までは比較的静かな、誰の思考にも上らない空想だったのが、このところ、トランプ大統領および政権による購入・領有意思の表明により、大西洋を隔てた緊張の高まりに繋がっています。
英国は「アメリカがグリーンランドに対して軍事的な行動を取る場合には、英国軍が対峙する」と表明していますし、フランスについては、グリーンランド防衛のために原子力潜水艦を派遣して備えると表明しています。さらにはNATOのルッテ事務総長は「加盟国の中心である米国が、加盟国であるデンマークの自治領を軍事的に脅かすような事態になった場合、NATOは自ずと瓦解することになる」と警告をしています。
トランプ大統領がどこまで本気で欧州からの呼びかけと警告をまともに受け取るかは不透明ですが、欧米間のTrans-Atlanticの同盟の結束が崩壊寸前の危機に瀕しています。
「なぜトランプ大統領はこのような賭けに出るのか?」という理由については、すでに米国の歴史的な思考と過去の成功体験に基づく考えがあることは述べましたが、その他に2つの要素が理由として考えられます。
1つは北極圏のパワーバランスを見てみると、地球温暖化の影響も色濃くありますが、北極海の氷が解け、ロシア、アメリカ、カナダ、デンマーク(と欧州)、そして中国の艦船の通航が容易になり、また海底資源開発へのアクセスが一気に高まってきていることから、これらBig 5による資源と制海権の争奪戦が勃発しています。Arctic Councilなどの国際会議を通じて、北極圏の共同管理が謳われているものの、実際には話し合いと並行して各国による勢力争いが過熱しています。
ゆえにトランプ大統領が「中ロの野望からグリーンランドを守るためにアメリカ領とするべき」というのは、全く荒唐無稽とは言い切れないのではないかと考えられますが、本気でグリーンランドを中ロの“野心”から守ることが主目的であれば、せっかくあるNATOをフルに活用し、グリーンランドおよびその周辺地域にNATO軍基地または海軍のベースを置けばいいのではないかと考えるのですが、そうではなくどうしてアメリカ政府は“所有”を主張するのでしょうか?
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