明治に作られた「ウソ」の正体
それにしても、なぜ学術的に否定されている「日本人単一民族論」が長く残ってきたのだろうか?
それは、端的に言ってしまえば「学術的に正しいから」ではなく、「社会運営にとって都合がよかったから」だ。
明治以降、日本は短期間で中央集権国家・徴兵制・義務教育・国民国家意識を作る必要があった。そしてそのためには、「我々は同じ祖先を持つ単一の民族だ」という物語は、国民統合のために最も都合が良かったのである。
そして敗戦後も、単一民族論は戦後憲法の平等原則とも整合的であり、高度経済成長期の「一億総中流」意識とも親和的だったために、そのまま温存されてしまった。
何のことはない。これまた明治の産物に過ぎなかったのだ。
そしてその際、「同じ祖先を持つ単一民族」という幻想を支えるために、「同じ祖先」として神武天皇が利用され、その血統がとてつもなく強固に現在まで続いているということにするために、「万世一系」「一貫して男系男子」というさらなる幻想が使われたというわけである。
つまり「日本人単一民族論」と「天皇万世一系論」は明治期にセットで作られた幻想(というか、ウソ)であり、自称保守・ネトウヨはそれを今なお信じ込んでいるのである。
これらはいずれも学術的に完全に否定されているのみならず、「天皇万世一系論」に基いて男系男子に固執すれば、確実に将来的に天皇制は滅ぶし、「日本人単一民族論」に基づいて移民反対に固執すれば、確実に将来的に日本社会は行き詰るという、有害無益なものにまでなっている。
自称保守・ネトウヨは明治期に作られたウソを「伝統」だと信じ、愛国心を持って伝統を守っているつもりで、日本を亡国へと導く主張ばかりをしているのである。
日本人が見失ったもの
幕末にペリーがやって来なければ、日本人は近代化の必要も感じず、日本国の島々の中だけで充足して暮らしていけたはずだった。
ところが欧米列強の手によって、日本は弱肉強食の帝国主義の世界の中に否応なく放り込まれてしまった。そうなると食うか食われるかの二者択一。
生き残るためには「食う」側に回るしかない。それで明治以降、日本は無理やりにでも西洋文明を取り入れて国を近代化させてきた。
その時代にはそうするしかなかったという事情は十分理解するが、しかしその無理やりの西洋化・近代化のために、日本人が本来の日本を見失ったり、自ら捨て去ったりしてきた例は、数限りなくある。
日本人は今からでも、その失ったものを見直し、取り戻す努力をすべきなのである。
ましてや明治に作られた、本当は日本的ではない観念や制度を「伝統」だと思い込んで固守するような愚行など、絶対にやってはいけないことなのだ。
日本は必死に帝国主義の世界に順応し、不平等条約を解消し、さらには海外に勢力を伸ばしていった。
ところが日本人が海外で行った植民地政策は、欧米列強がやったそれとは全く違った。
欧米人は、現地の住民を「異質」な存在としか認識しない。自分たちとは根本的に違う生物として線を引き、支配し、搾取し、そのことに何の疑問も罪悪感も持たなかった。
しかし日本人は、そういうことができない。ほとんど無意識のうちに、現地の住民も自分たちとひとつながりの存在だと思ってしまう。
だからこそ日本人は、台湾でも、朝鮮でも、大東亜戦争中のアジアや南洋諸島でも、ここを自分たちが支配するとなったら、インフラを整え教育を普及させ、現地の人々を自分たち日本人と同じようにしようとしたのだ。
それは戦略的に考えたわけでも、意図的・計画的にやったわけでもないだろう。日本人は思わず知らず、そういうことをやってしまうのである。
もちろん、朝鮮人のように民族アイデンティティーが強烈な人々にとっては、そんな日本人のやることは「ありがた迷惑」であり、民族の誇りを傷つける行為と感じた者もいただろう。
だが、植民地から一方的に収奪するのではなく、現地へのインフラ投資などを積極的に行い、結果的に「持ち出し」の方が多くなっていたなどという植民地経営は、欧米列強は絶対にやらなかったことであり、それを「植民地」と呼んでいいのかと疑問を抱いてしまうほどである。
また、今では抹殺された歴史になってしまっているが、当時の朝鮮人にも進んで日本人化を受け入れた人たちが多くいたというのも事実なのである。
日本は満州経営の際にも「五族協和」を掲げていた。「和・朝・満・蒙・漢」の五民族が協調して暮らせる国を目指すという意味である。
これで、もし日本が戦争に敗れずに満州国が発展し、さらに「大東亜共栄圏」までが達成されていたら、そこは西洋文明圏とは全く異なる、多民族がゆるやかにつながる、寛容な一大文化圏となっていたかもしれない。もはや夢想にしかならないが、日本人はそんな世界を作り得る可能性を秘めていたのだ。
この記事の著者・小林よしのりさんのメルマガ
※ワンクリックで簡単に登録できます↑
¥550/月(税込)毎月 第1・第2・第3・第4火曜日
月の途中でも全ての号が届きます









