「思い切った決断」ができる環境にある米中両首脳
さらにこうした「5B、3T」とは別に大きな2つのテーマがあります。それは、
「米国としてはイランによるホルムズ海峡封鎖を中国の圧力で止めさせて欲しい」
「両国としてはAI開発競争におけるリスクを抑える何らかの合意をしたい」
という直近課題が2つあります。一部には、合成鎮痛剤のフェンテネルの流出を止めるように要請するという問題も取り上げられるという観測もあります。それとは別に、同行者についても見えてきており、ボーイング、アップル、NVIDIA、エクソン、クワルコム、ブラックストーン、シティ、ビザの各CEOも招待されているようです。
さらに言えば、米中首脳会談は今回だけでなく、今年、2026年には、11月に深圳でのAPEC、12月にはマイアミでのG20もあり、習近平、トランプが相互訪問して会談するチャンスは数多くあります。ですから、基本的に関係を良くするという機運はかなりあるようです。
また、米中の政治的な状態ということでも、かなりの類似が見られます。まず、双方ともに相当な程度、首脳に権限が集中しているという特徴があります。トランプ政権は何と言っても、大統領自身の発案と決定で動くわけで、とくに議会の地位が下がっていることを含めると、米国の近代史上ではもっとも権力が集中した体制です。
一方で習近平体制も同様であり、まずは22年から23年の権力闘争で、共青団系のバブル拡大路線を退け、2期10年の内規を改めて最高指導者として続投しています。また、常務委員会の中には明確なNo.2はなく(李強氏かもしれませんが、明確ではありません)、また次世代のトップ候補も目に見える形ではありません。ですから、とりあえず鄧小平改革以降の歴史の中では、権限が最も集中した体制です。
その反面、両者は苦境に立っており、その意味合いも全く似通っています。まずアメリカでは経済が不安定になっています。コロナの時期にバラ撒いた過剰流動性の結果、景気の過熱感はまだ残っていますが、サイクルとしては下降トレンドも見え隠れしています。そんな中で、AIによる経済全体への影響が顕著になってきています。
中国はもっと深刻で、不動産バブル崩壊の痛手はまだまだ続いています。これに急速なAIの実用化による失業が、アメリカ同様に社会問題化しています。経済を少しでも好転させることが急務ですが、この間は台湾問題を求心力に権力闘争が進行していたと見られます。ですが、長老をはじめとした党の総意としては、どうやら実体経済の好転へ舵を切るというのが決定事項のようです。
苦境ということでは、先が見えないという意味でも両者は似通っています。トランプ政権の場合は、中間選挙の結果によっては早期弾劾罷免という可能性もあると思います(実際は辞任してヴァンス昇任、その上で全面恩赦となるでしょう)。中国の場合は、28年の人事に関する権力闘争は水面下で進行中であり、ポスト習近平には習近平が含まれていそうですが、他のチョイスもあり得ると考えたほうが良さそうです。
そんなわけで、今回の米中首脳会談は、世界経済にとっても安全保障にとっても大きな意味を持ってくると思います。しかも、政治的にも、経済的にも米中は非常に類似の状況にあり、同時に「思い切った決断」ができる環境にもあるわけです。では、一体どのようなシナリオが描けるのか、順番に確認して参りましょう。
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