『方丈記』に学ぶ「軽トラ・キャンピングカー」
「じゃあ、どうすればいいの?」という声がどこからか聞こえてきたので、古典マニアのあたしが先人の知恵を授けましょう。わが日本には、兼好法師の『徒然草』、清少納言の『枕草子』と並んで「古典日本三大随筆」に数えられている鴨長明(かものちょうめい)の『方丈記』という素晴らしい随筆があります。随筆と言っても『徒然草』や『枕草子』のように、つれづれなるままによしなしごとを綴ったわけじゃなく、鴨長明が実際に体験した大災害が詳しく記されています。
皆さんも中学とかで習ったと思いますが、それが『方丈記』における「五大災厄」です。西暦だけ書きますが、1177年5月の「安元の大火」、1180年4月の「治承の辻風(竜巻)」、1180年6月の「福原遷都」、1181~1182年の「養和の飢饉」、1185年8月の「元暦の地震」という、どれか1つだけでも大変な災厄が、わずか8年の間に「これでもか!」「これでもか!」と連発したのです。
で、今回取り上げるのは、一番最初の「安元の大火」です。安元3年4月28日(現在の暦で1177年5月27日)午後8時頃、都の東南、現在のJR京都駅付近の宿屋が、火の不始末で火事を起こしたのです。当時、東南から西北へと強風が吹いていて、その火はまたたくまに風下へと燃え広がりました。朱雀門、大極殿、大学寮、民部省などが一夜のうちに全焼して灰になり、公卿の邸宅だけでも16軒、一般の家屋に至っては都の3分の1が焼失したのです。
死者は「数十人」と記載されていますが、同じ「安元の大火」を扱った『平家物語』には「数百人」と記載されていることや火災の規模から考えて、この「数十人」というのは書き写した時のミスで、実際には「数百人から千人以上」の犠牲者が出たと推算されています。
この火災を実際に見ていた鴨長明は、逃げまどう人々や夜空へ立ち上る煙などを詳しく記していますが、何よりも衝撃を受けるのが、大金を払って買い集めた財宝をすべて灰にしてしまった公卿たちを筆頭に「人間の愚かさ」について綴った次の一節です。
「人の営み、みな愚かなる中に、さしも危ふき京中の家を作るとて、財(たから)を費やし、心を悩ますことは、すぐれてあぢきなくぞはべる。」
(きっこ訳)「人間のすることはみな愚かだが、その中でも特に愚かなのが、どこからか火が出たらすぐに燃え広がってしまう危険な都の中に、わざわざ高いカネを払って家を建て、災害を心配しながら暮らすことだ。これほど甲斐のないことは他にないだろう。」
もしも鴨長明が現代に生きていたら、30年後までに70%の確率で首都直下型地震が発生すると予測されてる都の真ん中に、新築の時より遥かに値上がりしてる中古マンションを買うほど愚かなことはないと言うかもしれませんね。そして、そんな鴨長明がどんな家に住んでいたのかというと、それがこの随筆のタイトルにもなった「方丈庵」でした。
現在は京都の左京区の「下鴨神社」の第一摂社「河合神社」の境内に復元されてるので、見学することもできますが、その名の通りに「方丈」、つまり「一丈四方」の正方形、3メートル四方の小さな家で、畳でいうと6畳より少し小さい「5畳半」ほどのワンルームです。で、このワンルームの何が凄かったのかというと、この家は分解して移動することができたのです。
※「復元された方丈庵」 https://www.youtube.com/watch?v=u8KRt3RbNKY&t=18s
簡単な土台と骨組みを組んだら、後は薄い板で作られた軽量の壁を嵌めていき、最後に屋根を乗せます。大工さんが2人いれば半日ほどで組み立てることができたそうで、5メートル四方の平らな土地があればどこでも設置できました。そして、分解すれば大八車で簡単に運ぶことができたのです。「安元の大火」だけでなく、その後に竜巻や地震まで体験した鴨長明は、建物の多い都で暮らすことの危険性、どこか1カ所に留まる暮らしの危険性に、誰よりも先に気づいたのです。
さらに鴨長明は、琴や琵琶まで持ち運びしやすい組み立て式のものを作りました。まるで現代のキャンプ用品のような発想ですよね。そう!今も昔も愚かな人間は、将来的に大災厄が発生すると予測された場所に高い家を買って住み続けますが、鴨長明のように賢い人間は、何かあった時にすぐに移動できる小さな家、つまり「軽トラのキャンピングカー」を手に入れるべきなのです!
あたしは、これこそが先人からの知恵だと思います。仮に東京に住むとしても、マンションは首都直下型地震で倒壊しても借金を背負わないように賃貸にしておき、高額中古マンションの何十分の1の値段で買える「軽トラのキャンピングカー」を手に入れておくのです。そうすれば、休日にはキャンプを楽しめますし、イザという時には完全プライベートな避難場所にもなるからです。(『きっこのメルマガ』2026年5月20日号より一部抜粋・文中敬称略)









