「愛子天皇」は認めず「赤の他人に近い男子」が皇位継承権を持つ?皇室典範改定で与党が押してしまった日本人の新たな“覚醒スイッチ”

 

日本の将来にとって重要な「天皇制とは何か」という国民的議論

そして内容の問題としては、もともと与党が「立法府の総意」と言っていた取りまとめ案の段階では、皇族数確保の具体策として、先述した2021年の有識者会議で提案された2案、すなわち、

  1. 女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する案
  2. 旧宮家の男系男子を養子として皇族とする案

を示すところまでで、皇位継承権については言及されていませんでした。しかし、国会審議に提出された与党案では、皇位継承権について、養子本人の男系男子に資格はないものの、「養子となった後に生まれた男子(養子の子孫)は皇位継承資格を持つ」と明記されていたのです。野党の立憲民主党は、主にここについて「だまし討ち」と強く反発していました。

結局、今回の改定では、皇室典範第1条の「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」についてはそのままで、2005年に提案された女性・女系天皇誕生の道は閉ざされたままです。

また、現在9条で皇族が養子を迎えることを禁じていますが、今回の改定によって、今上天皇の一親等である愛子内親王が天皇になることはできない一方で、36~38親等も離れた実質的には赤の他人に近い男子が、皇位継承権を持つことになる可能性が生まれることになりました。

とにかく、今回の皇室典範改定の議論では、女性・女系天皇の是非、養子の是非、女性皇族やその家族の身分についてなど、積み残しの課題が多く、一部の権力者や極右政治家の思惑ばかりが先行した印象で、立法府の総意はおろか、とても国民の総意に基づいた内容とは言えません。元宮内庁長官の羽毛田信吾氏なども、テレビの取材に応じて苦言を呈しています。

関連記事:元宮内庁長官が語る「血統も大事だが“象徴天皇”とは何かを常に念頭に」「上皇さま“退位”には象徴天皇への“国民の理解”あった」

私も、衆議院で審議・採決が行われる日の朝、以下を投稿しておきました。

https://x.com/ktsujino/status/2075385918501142538

するとその後、共産党の塩川議員がまさにこの点を単刀直入に質問していました。思った通り、答弁にあたっていた木原官房長官は、まったく答えられずに立ち往生してしまいました。

https://x.com/ashitawawatashi/status/2075415800379474311

今回の皇室典範改定を巡る動きを見ていて強く思うのは、先ほどのXへの投稿で述べた通り、本来であればこれを機会に「そもそも天皇制とは何か」ということに関する国民的議論をしっかりと盛り上げた方が良いということです。

天皇制は、歴史的にも日本という国の根幹をなす制度だと思いますが、明治維新までの時代と、明治維新以降の時代、そして太平洋戦争以前と以降でその意味合いが大きく変遷しています。

特に太平洋戦争後は、「象徴天皇」という新しい概念で天皇制そのものの意味合いが大きく変わりました。私自身は戦後生まれですが、生まれた時から、この「象徴天皇制」というものを特に疑問に思うこともなく、思考停止のまま受け入れてきた面があります。

しかしながら、今あらためて考えてみると、実はこの象徴天皇制は、日本国憲法と並んで、戦後、平和主義国家としての道を歩んできたこの国のアイデンティティともいえるかけがえのないものではないでしょうか。もちろん、全く違う意見も含めて様々な意見があるでしょうから、今あらためて、「この国にとって天皇制とは何か」ということを歴史も遡りながら議論することは、日本の将来にとって非常に重要なことだと思います。

そういう面では、今回、与党が皇室典範の改定を乱暴に仕切ったことは、日本人にとって、新たな「覚醒のスイッチ」になったかもしれません。

※ 本記事は『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中 』2026年7月17日号の一部抜粋です。このほか、「今週のメインコラム」や「読者の質問に答えます!」、「スタッフ“イギー”のつぶやき」など、レギュラーコーナーも充実。この機会にぜひご登録をご検討ください。

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辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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