■「宣言力」と「実効力」のギャップが限界に達しつつあるイラン
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは8月16日、イランの強硬派指導者たちが革命防衛隊の権限強化やミサイル、ドローンの生産強化を進めていたと伝えました。
8月上旬には、国防・外交を統括する最高安全保障委員会(SNSC、国家の安全保障政策を最終的に決める中枢機関)の主要ポストに、軒並み強硬派が充てられる人事も明らかになりました。
こうした強硬姿勢の裏には、弾薬が不足し、ホルムズ海峡の封鎖解除でも打つ手がないトランプ政権の足元を見透かしている計算があるように見えます。そして、覚書にあった原油輸出の容認などの履行を、米国から引き出そうとする狙いからの強硬姿勢だと思われます。
米国は封鎖措置を継続する姿勢を崩していませんが、イラン側が折れるかどうかはまったく見通せないのが現状です。
そんな中、UAEは8月19日、イランとの貿易や金融取引を当面停止すると発表しました。前日18日にイランが弾道ミサイル2発を発射したことへの対応措置とされています。イラン側はミサイルの発射を否定していますが、湾岸アラブ地域での軍事衝突が激化するのではという懸念が高まっています。
ロイター通信によれば、イランのUAE攻撃はおよそ3カ月ぶりのことです。トランプ大統領がイラン問題からの足抜けを画策しているという見方がある中、米国が中東地域から距離を置けば相対的にイランの影響力が高まりかねません。UAEはそれを警戒して先手を打ったのではないでしょうか。
ガリバフ議長は8月18日、米国が覚書の内容を履行するまでホルムズ海峡の封鎖を継続すると述べていますが、当のその交渉枠組みも、17日に期限を迎えています。振り上げた拳の行き場を失っているようにも見える発言です。
もっとも、実態はイランの思惑通りには進んでいないようです。米CNNは8月19日、船舶追跡データを扱う調査会社ケプラーの分析として、過去2週間にホルムズ海峡を通過した船舶の8割超が、国連承認のオマーン側航路を利用したと報じました。
少なくとも、イランが繰り返し主張してきた「海峡を握っている」という宣言と、現場の船舶運航の実態との間には、明らかなずれが生まれています。強硬な言葉と、現場で起きている現実との間に、静かなずれが生まれ始めているのです。
交渉の世界には「宣言力」と「実効力」という二つの力があります。「宣言力」とは、言葉やメディアを通じて相手に脅威を感じさせる力のことで、「実効力」とは、実際に現場を動かす力のことです。
イランは今、「宣言力」では強硬な姿勢を貫いていますが、「実効力」の面では海峡通航の8割超がオマーン側航路に移っています。
この二つの力の差が開けば開くほど、いずれは強硬な言葉そのものが説得力を失っていきます。ブラフを重ねるほど、次にブラフを使えなくなるのが交渉の常です。イランが今後どこかで軌道修正を図るとすれば、この「宣言力」と「実効力」のギャップが限界に達したときになるだろうと見ています。
同じことが米国、特にトランプ大統領の言動にも言えます。
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