■米韓演習縮小が浮き彫りにした「タイミングと見せ方」の難しさ
北朝鮮が今のトランプ大統領を利用しようとする恐れは十分にあります。もし米韓の間に溝が広がれば、日本を取り囲む中国、ロシア、北朝鮮が軍事面でさらに増長し、北東アジア地域の安定が脅かされる恐れが高まるでしょう。
実際、北朝鮮の金与正・朝鮮労働党総務部長は8月19日、米韓演習の縮小について「評する値打ちもない。全く興味を抱かない」と一蹴する談話を発表しました。「訓練の規模や期日を減らしても挑発的・攻撃的な演習の本質は変わらない」とも主張しており、現時点でトランプ政権が期待するような融和シグナルとしては受け止められていない様子がうかがえます。
交渉の世界では、譲歩を差し出しても相手がそれを受け取ってくれるとは限りません。今回のケースは、譲歩の「タイミング」と「見せ方」がいかに難しいかを物語る好例だと感じています。
軍事演習の縮小という譲歩は、差し出す側にとっては大きな決断でも、受け取る側にとっては「当然の権利」に見えてしまうことがあるものです。特に北朝鮮のように、長年アメリカを交渉相手として値踏みしてきた国は、譲歩そのものよりも「その裏に何を要求されるか」を先に読もうとします。金与正氏の素っ気ない談話は、まさに「まだ本気の要求が見えていない」という警戒感の表れだと私は受け止めました。
「譲歩を成果として認めてもらうには、それが何と引き換えなのかを相手に理解させる」、いわば「値札」を丁寧に提示する作業が欠かせません。この値札の提示を怠ったまま譲歩だけを重ねると、相手はさらなる譲歩を待つようになり、かえって交渉のペースを失うことになりかねないのです。
北朝鮮が核保有国として扱われることを前提に、対話の条件を組み立てようとしているように見える点も見逃せません。本来なら「核を放棄するかどうか」を巡る交渉のはずが、いつの間にか「核保有国としてどう扱うか」という交渉に土俵が移ってしまえば、米国側は最初から譲歩した状態で席に着くことになります。
これは交渉の出発点を動かす、典型的なアンカリングが起きつつあると見ています。トランプ政権が北朝鮮を「核保有国」と呼ぶ回数が増えるほど、この土俵の移動は既成事実化していきます。
次に注目すべきは、11月のAPEC前後で米朝どちらが先に具体的な提案を出すか、その一点に尽きるでしょう。
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