■サウジアラビアが襲われた「もう一つの打撃」
紅海の出口の重みは、数字にも表れています。
米エネルギー情報局(EIA)のデータによれば、2026年4月から6月にバベルマンデブ海峡を通った石油は日量810万バレルで、2025年10月から12月の540万バレルから大きく増えました。同じ期間に、ホルムズ海峡を通った石油は日量2,160万バレルから490万バレルへと、8割近く減っています。
数字の上では、いまや紅海の出口のほうが、ホルムズ海峡よりも多くの石油を運んでいる計算です。
もちろん、これはホルムズ海峡の代わりに、紅海側へ輸送が振り替えられた結果でもあります。それでも、ホルムズ海峡が細れば細るほど、バベルマンデブ海峡の重みが相対的に増していくことは、この数字から読み取れます。
フーシー派がこの時期に紅海の出口へ手をかけたのは、偶然ではないと私は見ています。
同じころ、サウジアラビアをもう一つの打撃が襲いました。
9月10日から11日にかけて、ペルシャ湾側と紅海側を結ぶ東西パイプラインが無人機攻撃を受け、稼働を停止しました。サウジアラビア当局は無人機の発射地点をイラク南部のマイサン県と特定したと伝えられ、イラクの首相府も9月13日にこれを認めて、現地の司令官を更迭しています。
東西パイプラインは、ホルムズ海峡を避けて原油を紅海側へ逃がすための、極めて重要な生命線でした。輸送能力は日量700万バレルほどありますが、紅海側の積み出し港の処理能力に合わせて、攻撃前は日量400万バレル前後に抑えて運用されていたと報じられています。
その出口にあたる紅海側のヤンブー港では積み出しが止まり、欧州向けの出荷の一部がキャンセルされました。ヤンブーに残る輸出向けの在庫は、5日から7日分程度にとどまるとの報道もあり、いかに状況が切羽詰まっているか推察することが出来ます。
パイプラインの復旧時期についての見通しは、当初、大きく割れていました。AP通信は中東の当局者の話として、ポンプ施設などの損傷により修復には3週間から5週間かかると伝え、ライト米エネルギー長官は9月15日、復旧は日単位の話だと語っています。
その食い違いを埋めたのが、9月16日のブルームバーグの報道でした。
サウジアラムコは、輸送能力の半分ほどを数日のうちに回復させ、全面的な復旧には6週間ほどを見込んでいるとのことです。ゆえに「半分は数日で戻るものの、元通りになるには1か月以上かかる」というのが現時点での実相でしょう。
国際エネルギー機関、IEAの9月の月報によれば、サウジアラビアの8月の原油供給は日量600万バレル程度まで落ち込み、30年以上ぶりの低い水準となりました。
北海ブレント原油の先物は9月9日に約4か月ぶりに1バレル100ドルを超え、パイプライン停止を受けた9月15日には108ドル台で取引を終えました。17日には、パイプラインの半分が早期に戻るとの報道を受けて105ドル台まで下げていますが、ホルムズと紅海の両方に不安を抱えた市場が、落ち着きを取り戻したとは言えません。
こうした中、サウジアラビアは、大きく細ったホルムズ海峡経由の輸出を、少しでも増やせないか検討していると伝えられています。「紅海側の逃げ道が狭まったので、狭くなった元の道をもう一度広げにいく」というのは、相当に苦しい選択です。
ムハンマド皇太子は9月14日、ジッダで米中央軍のクーパー司令官と会談し、翌15日にはカイロでエジプトのシシ大統領と会いました。シシ大統領は紅海の航行の安全を支持し、湾岸の安全保障はエジプトの安全保障と一体だと応じています。スエズ運河の通航収入を大きく損なってきたエジプトにとっても、紅海の出口が塞がることは死活問題です。
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