■ムハンマド皇太子にとっての最大の誤算
米ニュースサイトのアクシオスは、先週ドイツで、クーパー司令官の呼びかけにより、米国、イスラエル、サウジアラビア、UAE、バーレーン、クウェート、カタール、ヨルダン、エジプトの軍の最高幹部が非公開で集まったと報じました。
会合の主な議題はイランとホルムズ海峡でしたが、これとは別に、イスラエルとサウジアラビアの間で、フーシー派に対するサウジの軍事作戦をイスラエルがどう支援できるかが話し合われたとのことです。
イスラエルはすでにUAEに対して、情報収集や警戒監視、偵察の面での支援を行っており、同様の支援をサウジにも提供できないか検討していると伝えられています。国交のない両国の軍の幹部が、同じ脅威を前に実務的な協議を重ねているとすれば、平時なら何年もかかる接近が、戦時の圧力で一気に進んでいると言えそうです。
これまでサウジアラビアは、イスラエルとの国交正常化の条件として、パレスチナ国家の樹立に向けた道筋を求め、米国からの安全保障の約束や原子力協力をあわせて引き出そうとしてきました。その交渉では、時間はサウジの味方でした。今は、紅海の出口を守るために、イスラエルの情報や監視の能力を必要としているのがサウジアラビアの側です。
「交渉力の天秤が、戦時の必要によって静かに傾き始めている」ことを示すこの変化を、私は中東の外交地図を長い目で塗り替えかねない動きとして見ています。
フーシー派とサウジアラビアの対立は、宗教的に最も敏感な領域にまで近づいています。
9月15日、サウジ主導の連合軍はメッカの南方でフーシー派の無人機を迎撃したと発表し、聖地への攻撃はレッドラインだと強く警告しました。フーシー派は聖地を狙ったことを否定していますが、双方がこの一線を口にし始めたことに、紛争の温度の高さが表れています。
オマーンの仲介により、9月12日から13日にかけてマスカットで米国の当局者とフーシー派の幹部が接触し、フーシー派が米国との停戦は維持する一方でサウジの船は攻撃対象になり得ると伝えた、との報道もあります。
ただ、この接触について米国務省は確認しておらず、現時点では未確認の情報です。仮に事実であれば、フーシー派は米国とサウジアラビアを切り分け、米国を刺激せずにサウジだけを締め上げるという、計算された戦い方をしていることになります。
ムハンマド皇太子にとっての最大の誤算は、米国とイランの軍事衝突がここまで長引いたことでしょう。
イランの攻撃でアラムコの施設や空港が被害を受け、紅海側ではフーシー派による海上封鎖が宣言され、脱石油を掲げた成長戦略も、投資の優先順位の見直しを迫られています。巨大都市構想のNEOMは以前から計画の縮小が伝えられていましたが、この戦争がその流れを加速させているように見えます。
イエメンの停戦を支える仲介に関わってきた立場から言えば、モカ陥落がもたらした最も深刻な変化は、地図の塗り替えそのものより、フーシー派が交渉のテーブルで使える手札を一気に増やしたことにあります。紅海の出口を握る者は、サウジアラビアだけでなく、世界の石油市場全体に対して発言力を持つからです。
交渉では、相手のBATNAを削ることが、自分のBATNAを磨くことと同じくらい効きます。東西パイプラインへの攻撃と紅海沿岸への進出は、私の読みでは、サウジアラビアの逃げ道そのものを狙った、極めて交渉的な軍事行動でした。
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