【1-4.免除の「値段」は誰が払うのか】
では、この免除で、米国は何を得たのでしょうか。ベッセント長官の説明を素直に読めば、米国が手にしたのは、ロシアから届く軽油と、ガソリンや軽油の値段を少しでも抑えたいという中間選挙の前の思惑です。
しかし、ロシアの側から、停戦や攻撃の停止といった見返りが示されたという報道は、今のところありません。前号で私は、米国がロシアから何も引き出さないまま、制裁の緩和という札を先に切ったとお伝えしました。今週の免除は、その札を、もう一枚重ねて切ったことになります。
交渉の世界には、「ただで渡したものには値段がつかない」という格言があります。相手は、ただで受け取ったものを「もともと自分のものだった」と考えるようになり、次にそれを取り上げられたときには、新しい損失として激しく抵抗するからです。
ロシアにとって、今回の免除は、交渉で勝ち取った譲歩ではなく、何もしなくても転がり込んできた贈り物です。その贈り物を後で取り上げようとすれば、米国は、ロシアに「約束違反だ」と言わせる口実を与えることになります。
一方、ウクライナと欧州は、その値段を別の形で払わされています。
EUは、この間も逆の方向にねじを巻き続けています。外相理事会は10月12日、ロシアの軍需産業、とりわけミサイルの生産に関わる個人と団体を中心に、約1,600件の制裁の指定を決めました。カラス外交安全保障上級代表は、その狙いはロシアの軍産複合体だと説明しています。
モスクワ・タイムズによれば、一度の指定としては過去最大で、これでEUの戦争に関わる制裁の対象は4,650件近くに達します。首脳会議の結論も、ロシアのエネルギー収入を断ち、制裁の抜け穴をふさぐためのさらなる措置を、パートナーと連携して取るよう求めています。
EUの内部では、経済の分野にまで踏み込んだ、より大きな次の措置の準備も続いていると伝えられています。9月以降の報道によれば、その候補として挙がっているのは、主に五つの分野です。
- 弾道ミサイルの製造者と、その部品の供給者への制裁
- アルミニウムや一部の生産設備を含む、貿易の制限の強化
- ロシアの銀行が第三国の銀行や物流を迂回して使う道を断つための、金融の制限
- 「影の船団」と呼ばれる老朽タンカーの船舶、運航者、実質的な所有者、燃料の補給業者への制裁と、暗号資産の業者への監視の強化
- ロシア産の原油を運ぶ海上輸送のサービスの全面的な禁止(ただし、ホルムズ海峡の情勢を見ながら判断するとされます)
いずれも検討の段階の案で、最終的な中身は変わり得ます。
首脳会議の結論には、ロシアがウクライナの占領地から奪った穀物がEUを経由して輸出されるのを防ぐ必要性も盛り込まれました。ウクライナの外交官の一人は、2027年のフランス大統領選挙をにらみ、来年2月が新たな制裁で合意する一つの期限になるとみています。
米国が制裁を眠らせた同じ週に、欧州は制裁の網の目を細かく編み直していたのです。その欧州が苦労して締め上げてきた網の目に、大西洋の向こうから大きな穴が開けられたことになります。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、「ロシアが戦争を終わらせない限り、どの制裁も解かない」と述べています。EUのコスタ常任議長も、「今はロシアへの制裁を緩める時ではない」と語りました。
同じ西側の陣営の中で、制裁を「交渉のてこ」と見る米国と、制裁を「戦争の資金を断つ道具」と見る欧州とが、はっきりと分かれ始めています。
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