プーチンが持ちかけた三者会談にトランプと習近平は乗るか?国際交渉人が危惧する“席のない国”の頭越しで決められる新秩序の中身

 

【2-2.否定できる圧力】

私は、この出来事の本質は、誰が指示を出したかという犯人探しよりも、もっと別のところにあると考えています。

武器を引き揚げれば、世界中に報じられ、議会でも問題になります。しかし、通信の利用条件を変えることは、静かで、否定しやすく、それでいて効き目は大きいのです。

国際政治学者の佐々木れな氏は、10月15日から16日にベルリンで開かれたNATOの将来をめぐる国際会議の様子を伝える論考で、兵器の国籍よりも、通信の接続の権限やソフトウェアの更新の権限が戦場を左右すると指摘しています。同氏によれば、その会議では「ホワイトハウスとペンタゴンは、いまロシア側に立っている」という厳しい言葉まで出たそうです。

交渉の言葉で言えば、米国はウクライナに対して「見えないレバレッジ」を握っています。そして、そのレバレッジを実際に使ったのかどうかが曖昧なままであることが、かえって圧力として効いてくるのです。相手は「次は何が止まるのか」を考え続けなければならないからです。

英国のストリーティング国防相は15日、国防総省でヘグセス国防長官と会い、スターリンクの通信が戻ったことを二人で歓迎したと述べました。ただ、同国防相は、なぜ通信が途切れたのかについては話し合っていないと付け加えています。ゼレンスキー大統領は16日、速度は戻りつつあるが、まだ元の水準ではないと述べました。

この出来事を、日本は他人事として眺めるわけにはいきません。日本の防衛もまた、米国製の装備、米国の衛星、米国から届く情報に、深く支えられているからです。装備の本体は日本の手元にあっても、それを動かすソフトウェアの更新や、敵を捉えるための情報の流れが別の国の判断に握られていれば、その装備を思いどおりに使える保証はありません。

ここで私は、同盟国を疑えと申し上げているのではありません。同盟国の判断がこちらの利益とずれたとき、どこまで自前で補えるのかを、平時のうちに確かめておく必要があると申し上げているのです。

ウクライナ大統領府のジョフクヴァ副長官は、米国の防空システムやスターリンクに代わる欧州の選択肢を作っていると述べています。しかし、衛星の網の規模と能力では、スペースXが他を大きく引き離しているのが現状で、すぐに乗り換えられる代わりはほとんどありません。代わりがないからこそ、その通信は最も強い交渉の材料になります。

交渉の言葉で言えば、ウクライナの「BATNA」、つまり合意が成り立たなかったときに取れる最善の代わりの手が、極めて弱いということです。BATNAの弱い側は、相手の条件を飲むか、自らのBATNAを時間をかけて作り直すしかありません。欧州が今、ウクライナとともに取り組み始めているのは、まさにその作り直しなのです。

この記事の著者・島田久仁彦さんの新創刊メルマガ

初月無料で読む

print

  • プーチンが持ちかけた三者会談にトランプと習近平は乗るか?国際交渉人が危惧する“席のない国”の頭越しで決められる新秩序の中身
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け