【2-3.相手の後ろ盾を訪ねる外交】
10月26日、サウジアラビアのハーリド国防相、パキスタンのムニール陸軍参謀長、トルコのカルン国家情報機構長官の3人が、そろってイランの首都・テヘランを訪れ、ペゼシュキアン大統領と会いました。三つの国は、8月にサウジアラビアが結んだ集団防衛の取り決め「メッカ共同防衛協定」の加盟国です。
カタールの衛星テレビ局アルジャジーラは、ここ数カ月にテヘランで開かれた中でも最も注目度の高い対話の一つだと伝えています。イランの国営メディアによれば、4カ国は平和と安全保障の協力について対話を続けることで一致しました。サウジアラビアの外務省は、訪問の目的を、緊張を和らげ、カタールとパキスタンが進める米国とイランの間の仲介を支えることだと説明しています。
この訪問の意味を、私は「相手の後ろ盾を訪ねる外交」と呼びたいと思います。サウジアラビアは今、イエメンのフーシ派からのミサイルとドローンの攻撃にさらされ続けている国です。そのフーシ派の最大の後ろ盾がイランです。軍事でフーシ派を抑え込めないのであれば、その後ろ盾を通じて抑えてもらうしかない、という判断です。
前号でお伝えしたとおり、メッカ協定の国々は、サウジアラビアの防衛には出るが、イエメンでの攻撃には加わらないという線を引いています。盾は差し出しても、矛は差し出さない国々が、そろって相手の後ろ盾の首都に足を運んだことは、軍事の選択肢が細っていることの裏返しでもあります。サウジアラビアは、交渉が決裂した場合の代わりの手(BATNA)が弱いため、相手の後ろ盾を経由する間接的なレバレッジに頼っています。
アルジャジーラによれば、訪問を主導したとされるパキスタンのムニール陸軍参謀長は、前の週にもサウジアラビアとイランを訪れていました。そのパキスタンは、米国によるイランの封鎖が続く中で、イランとの陸路の国境貿易を制限してもいます。イランに対話の手を差し伸べつつ、米国の封鎖にも足並みをそろえるという二重の立ち位置が、パキスタンを仲介者として使える存在にしています。
国際危機グループのヴァエズ氏は、アルジャジーラに、この訪問は「銃声が再び鳴り響く前に、妥協を望む側に天秤を傾けようとする試み」だと評しました。同時に同氏は、米国とイランの溝を埋める信頼できる案を持っていかなければ、「善意以上のものは得られない」とも指摘しました。
英国の王立国際問題研究所(チャタムハウス)のヴァキール氏は、イエメンについては限られた了解の余地があるかもしれないが、フーシ派には独自の計算があり、イランの影響力は絶対ではないと見ています。
私も、ここに最大の落とし穴があると考えています。イランとフーシ派の関係は、命じれば従うという主従の関係ではありません。依頼人と代理人の結びつきが緩いほど、依頼人が交わした約束を代理人が守る保証は薄くなります。イランが「フーシ派を抑える」と約束したとしても、フーシ派がそれを守るかどうかは別の問題です。
実際、訪問の当日もその後も、フーシ派はサウジアラビアの東西を結ぶ石油のパイプラインや東部の製油所への攻撃を主張し続けています。27日の夜には、サウジアラビア主導の連合軍が、西部の都市ターイフに向けて撃たれた弾道ミサイルを迎え撃ったと発表しました。もっとも、フーシ派の主張の多くは、サウジアラビアの当局が確認しておらず、確かめられたものではありません――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦が読み解く国際情勢の裏側戦略インテリジェンス・レポート』2026年10月30日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録の上、10月分のバックナンバーをお求め下さい)
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