トランプ「イランは選挙を待っているのかも」発言の皮肉。敵に“時間を稼ぐ”という選択を容易にさせた米国大統領の失態

 

【1-2.キャスティングボートを握った19議席】

ネタニヤフ首相の陣営には8議席、アイゼンコット氏の陣営には13議席が足りません。そして、その差を埋められる位置にいるのが、アラブ系の2党です。アラブ系政党ラアムのアッバス党首は、両方の陣営から接触があったと明かし、実現できるならアイゼンコット氏の連立への参加を検討すると述べています。

もう一つのアラブ系の政党の連合である合同リストは、さらに踏み込みました。合同リストを率いるティビ議員は28日、トルコの通信社アナドルに寄せた声明で、アラブ系の市民の「大量の投票」は合同リストにとって歴史的な成果であり、合同リストは「それなしには変化があり得ない決定的な勢力」であることを証明したと述べています。

そのうえで、アイゼンコット氏らの「変化の陣営」に手を差し伸べ、ネタニヤフ首相と極右のベングビール国家安全保障相の政権を退陣に追い込むと表明しました。その第一歩として、ネタニヤフ首相に近いオハナ国会議長の解任を挙げています。

同じ合同リストのジャバリーン議員も、ユダヤ人とアラブ人の協力を呼びかけ、民主党を率いるゴラン氏は、「120まで数えられる」として、アラブ系の政党も含めた変化の政権を作るよう求めました。

一方のアイゼンコット氏は、野党の最大政党の党首を陣営の首相候補にすべきだと主張していますが、陣営の中での合意はまだ発表されていません。閣僚を出さずに、外から政権を支える形も取りざたされ始めました。

ところが、アイゼンコット氏の陣営の中にも、壁があります。陣営の右側に位置するベネット元首相とリーベルマン元国防相は、アラブ系の政党に頼ることを否定しているのです。米TIME誌の取材に、アイゼンコット氏は連立の相手に四つの条件を示していました。

  • イスラエルをユダヤ人の民主国家と認めること
  • 独立宣言の原則を守ること
  • すべての国民が兵役か社会奉仕の義務を負うこと
  • そしてハマスをテロ組織とみなし解体を求めること

です。同誌によれば、この最後の条件を、まだどのアラブ系の政党も受け入れていません。数の上では過半数に手が届くのに、条件が合わず手を結べない状態です。

私は調停の現場で、このような状態を何度も見てきました。数を足せば合意が成り立つのに、互いの「譲れない一線」が重なっているために、誰も最初の一歩を踏み出せないのです。

こうしたとき、よく使われるのが、正式な連立ではなく、個別の政策ごとに協力を約束する「閣外協力」という部分的な合意です。全体に合意できないなら、合意できる部分だけを先に切り出すという考え方で、交渉の言葉で言えば、問題を小さく分けて扱う「分割」の技法です。

ただし、部分的な合意には、部分的な正統性しかありません。ネタニヤフ首相の側は、アラブ系の政党の協力で成り立つ政権を「反シオニストに支えられた政権」と攻撃し続けるでしょう。

アイゼンコット氏は、ネタニヤフ首相との「挙国一致」の政権には、いかなる状況でも加わらないとTIME誌に明言しています。さらにアルジャジーラによれば、アイゼンコット氏は、アラブ系の政党の外からの支えに頼る少数の政権も否定しました。

合同リストの側も、政権を外から支えることはあっても、政権には加わらないとしています。閣外協力という部分的な合意の道も、入り口で狭まっています。

そうなると、残る道はさらに限られます。

  • ネタニヤフ首相が退くことを条件にしたリクードとの大連立か
  • どちらかの陣営からの切り崩しか
  • 組閣の失敗を経た再選挙

です。分析の専門家の間には、アイゼンコット氏を含む挙国一致の政権の可能性を指摘する声もありますが、ネタニヤフ首相が首相の座にこだわる限り、その道は閉ざされたままです。

再選挙になれば、ネタニヤフ首相は新しい政権ができるまで暫定の首相として職にとどまります。選挙で過半数を取れなくても、相手が組閣に失敗すれば権力を保てるという構図は、ネタニヤフ首相にとって最も強い交渉の札、つまりBATNAになっています。

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