【書評】ホテルで怒鳴り散らすクレーマーに、平謝りしてはいけない理由

 

しかし、この本では、

当たり前の事実にあらためて「気づいていただく」ための本です。さまざまな現象やサービス事例を私なりに分析し、解説を加えて提言してみたいと思います。

この姿勢が、全編とおして貫かれています。

この本で何度も使われている、サービスの本質=「軸」の表現が、単に「ことば」でなく、著者のマインドです。著者自身が、本質を見失わないこと、大切にすることを、プロとして、ブレずに体現していると「感じる」ことができるのです。そのため、文中では、体験談や、いわゆる正論が語られるのですが、武勇伝に堕することもなく、押しつけがましくなく、具体的で論理的に感じ、非常に読みやすいのです。

前述のとおり、ご自身の自分評が、p46から語られますが、「はじめに」ではなく、1章に入ってしばらく経ってからです。もし、いきなり「はじめに」から自分評をされていたら、わたしのこの本に対する評価は、まったく違ったものになっていたかもしれません。このように、構成も素晴らしく、読み物として、きちんと読者=客のことが考えられていて、非常に好感と信頼感をもって読み進めることができました。

もちろん、クレーム対応に役立つヒントも、いくつも見つけることができます。なかでも、p136は、「クレームは共感で乗り切ろう」として、ホテルのコーヒーショップで出会った、女性のクレーム客の事例が、書かれています。

概要は、

  • クレーム客とは関係ない別の女性が貧血で倒れ、救急車を呼んだ。
  • そのさい、このクレーム客は、「びっくりして自分の心臓が止まるかと思った。ここはファミレスではなく、ホテルのカフェだ」と主張し、ホテルの対応に不満を持っています。
  • このクレーム客が、ホテルの店員に怒りをぶつけていると、他の客に、「お前がうるさいんだよ、黙れよ」と言われますが、「うるさい、この若造」と返す始末で、ショップの中は大混乱です。
  • コレに対して、ホテル側は「申し訳ございません、本当に申し訳ございません」と平謝りするだけだったそうです。
  • 「アンタじゃ話にならない、店長を呼べ私はここの社長を知っている、言いつけてやる」といった、クレーマーの常套句を述べて、言いたい放題言ったあとで、このショップを後にしたのだそうです。

これに対し、著者の観察と、ホテル側の模範対応方法が秀逸でした。この女性が、なぜここまで激昂したのかの分析、平謝りをし倒すことは、「謝罪」ではなく「拒絶」であるとの冷静な指摘、そして、そのうえで、どう「共感」すればよかったのか、具体的に対応例をあげてくれます。

詳細は、実際にご一読いただきたいのですが、

一般的なクレームの場合、怒ることを目的として怒っているお客様はほとんどいません。大抵のお客様は「怒っている」のではなく、「困っている」のです。怒りをしずめても、何らかの解決策が提示されなければ、人は納得しません。

と、クレームの本質を、みごとにおさえた対応例でした。

print
いま読まれてます

  • 【書評】ホテルで怒鳴り散らすクレーマーに、平謝りしてはいけない理由
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け