アート・インタビューVol.2「腹にくる」美術作品とは?

2016.08.25
by gyouza(まぐまぐ編集部)
 

作品を取り巻く「トライアングル」の重要性

−作家、美術商、お客様。このトライアングルが以前はうまく回っていて、今はそうではないとすれば、まずどこから手を付ければいいのでしょうか。

淺木:第一には作家が優れた作品を創造することでしょうね。とにかく作品の水準を高めるべきです。私は普段から作家には厳しいことを言っています。芸術家だから誰でも褒めてもらいたいのでしょうが、個展を開くことが出来たとして、それで満足してもらっては困るのです。作品の出来の良し悪しについてのポイントはいくつもありますが、その作品が売れるか、売れないか、それが作家の評価につながるのです。非常にリアルなことを申し上げますが、作品に商品価値がないのは、その作家に魅力がない、ということになってしまうのです。芸術性が高いから人気が出る、というものでもありません。逆に、人気のある作家の作品でも、私から見ると、未熟さが目立ち、この作品のどこがいいんだろう、と不思議に思えることもあります。

思い起こしてみると、大体二十年くらいの周期で、偉大な作家が登場しています。戦後しばらくしてから、杉山寧、東山魁夷、髙山辰雄の、その次に横山操、石本正、加山又造、平山郁夫、という先生方の時代がありました。今はこのサイクルが途絶えて、スター的な作家の不在の時代を迎えているのでしょう。

−つづいてお客様についてですが、社長を引き継がれた当時から見て、今のお客様は何が違うのでしょうか。

淺木:かつてのように、ただ純粋に絵が好きだ、という方々だけでなく、今は自分の好きな美術品の資産価値を目的としたり、値上がりを期待したり、あるいは、有名作家の作品を所有しているというステータスを求めたりしている方が増えているようです。

お客様には、ご自身の眼を持って作品を選んでいただくことが大切ですから、例えばデパートの美術部の担当者は、自分の扱う作品についてもっと専門的に勉強して、きちっとお客様に説明できるように、よりプロフェッショナルな人材に育ってほしいです。さらに、自分で画廊を経営しているのであれば、自分の眼で選んだ作品を積極的に勧めて行くこと、言い換えれば、お客様を育てて行くことが大切だと思います。

実際、私は値切るお客様には絵を売りません。自分の信念で価格を決めているのですからね。そのかわり、売った作品には最後まで責任を持つよう心がけています。売りっぱなしにはしません。これを今買ったら後で儲かりますよ、では決してありません。将来的に価格がどうなるか、なんてその時になってみなければわからない。美術商がやるべきことは、作家とよく話し合い、その目的、内容、評価をはっきり理解して、きちんとお客様に伝えることで喜んでいただくことが大切だと思っています。

−その部分に美術商の仕事の本質があるのでしょうか。

淺木:私たちはあくまでも「伝承者」なのです。美術品の素晴らしさ、魅力をお客様に伝えて行く、理解していただくということから、さらに、お客様の大切な資産の保管のお手伝いもするわけです。美術品を所有されているお客様は、それを子孫に伝える場合もあるし、他の愛好家や、美術館・博物館に売却したりする場合もあります。そうした美術品の時を超えた移動に携わるのも私たちの仕事、果たすべき役割なのです。

何万人という美術商が全国に存在する中で、個々の美術商が、何よりも自分自身の心の眼を持つことを願っています。自分の眼で、自分の魂で見たものを大切にしてもらいたい。そうすることで、美術商が非常に魅力のある職業だ、ということが認められれば、今後は才能のある人材がたくさんこの世界に入って来るのではないでしょうか。外部の人たちの参加で、この世界が改革され、より魅力的な場所になることを期待しています。

親がこの商売をしているから自分も、とか、そういう伝承は、私がさっき言った伝承とは違います。美術商としての自分の眼は、自分一代でしか築き上げられないのです。自分の眼、自分のやり方で挑戦を続けることで、この仕事は成り立っています。私は守りに入ったことは一度もありません。これからもどんどん前に進んで行くつもりです。

東京美術倶楽部のこれから

−そんな中での浅木さんが会長を務められている「東京美術倶楽部」の取り組みについて、つづけてお話しいただけますでしょうか。

淺木:東美特別展や東美アートフェアといったイベントを通じて、お客様にアピールしていくことはもちろん大切です。美術に関する歴史的な資料を網羅的に収集整理することも、倶楽部が果たさなければならない重要な仕事です。例えば、カタログ・レゾネの作成があります。過去には山口薫、小磯良平のレゾネが出版されています。現在作成中の浅井忠のレゾネは、これまでにない大がかりなもので、完成が待ち遠しい限りです。

最近「日本の20世紀芸術」という大部な本を刊行しました。これは20世紀に文化・芸術の各分野で活躍した方々、画家、彫刻家、工芸家、写真家も建築家も現代アート作家も含めて紹介し、その作品の写真も数多く載せています。これまで我が国にはなかった、事典も兼ねた画期的な美術書になっていて、現在、英語版製作も検討中です。日本の芸術家って、どんな人がいますか、と海外の方に聞かれても、即答は難しかったのですが、こういう本があれば日本通の方でなくても、我が国の芸術への理解を深めることが可能になるでしょう。

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「日本の20世紀芸術」

 

また「市井展の全貌」という本も刊行しました。これは公的な展覧会以外に、百貨店や画廊で開かれた有力な展覧会の資料を、収集、調査して、戦前編、戦後編と分けてまとめたものです。調べた作品が二万点以上で、その半分以上が写真付きで掲載されています。日本近代の文化・芸術の貴重な資料として不可欠なものです。

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「市井展の全貌」

 

私たちは美術商として利益をあげることも大切な仕事ですが、それを社会的に還元することも考えねばなりません。次世代のために歴史を形で残すこともその一環です。私たちが当然としていることも次世代にはそうではない。世代を超えて、歴史を伝えて行くことも東京美術倶楽部の、美の殿堂としての意義を高めることになります。次の世代、そして次の次の世代の方々にも、倶楽部のさらなる繁栄を支えてもらいたいものです。

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東美特別展

 

−それでは最後に、今年10月14日(金)〜16日(日)に行われる東美特別展について、お聞かせください。

淺木:來住さんがプロデュースしているアートフェア東京の集客力は、すごいですね。私たちの仲間でもアートフェア東京に参加している人は多いのです。その集客力、魅力の斬新なアピールなど、見習いたいところはたくさんあります。ただ、東美特別展には、本当に優れた美術品が集められことをお伝えしておきたいです。東美特別展には、日本を代表するような、本当の意味で信頼できる美術商、そして優れた美術作品がそこに集結しているのですから、来ていただいたお客様には必ず満足していただけると、確信しております。

−本日はありがとうございました。

 

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