さよなら米国。トランプの「米国ファースト」がもたらす世界の終わり

 

大統領になったら君子豹変する?

米国にも日本にも、「トランプは選挙戦ではあんなことを言っていたけれども、実際に就任すればそんな馬鹿な行動はとらないだろう」という楽観論がある。石破茂=前地方創生相は『日経ビジネス・オンライン』11月12日付に載ったインタビューで、「トランプ氏は選挙中なので過激なことをいろいろと言っているが、同盟国との様々な事情もよく分かっている。大統領になるとなれば回りに優秀なスタッフも集まってくるので、彼らが立案する政策も含めて、『トランプ大統領』の評価を下すべきでしょう」と述べた。

安倍晋三首相もたぶん似たような認識で、「何も分かっていないトランプに自分がTPPや日米安保の重要性をレクチャーしてやれば、少しは理解するんじゃないか」くらいに思って、急遽17日にニューヨークでトランプに会うことにしたのだろうが、この「斜め上から目線はかなり危険である。

米タフツ大学の政治学教授で『ワシントン・ポスト』の常連コラムニストでもあるダニエル・ドレズナーは、11月4日付の同紙に「トランプ大統領は選挙公約のどれを実行しようとするだろうか?」と題した論説を寄せ、要旨次のように指摘した。

トランプ陣営の誰に聞いても、拷問の復活とか国境の壁とかは「ただのキャンペーン・トークだよ」とか「そんなことを本当にやれる訳がない。議会がストップをかけるだろう」とか言う。また多くのトランプについての評論も「彼は何ら核となる価値観を持たない単なる詐欺師だ」と言っている。

しかし、トランプはいくつかの核となる価値観を持っていて、それは昨日今日言い出したことではなくて、彼が過去30年間、繰り返し語ってきたことである。米国が軍事同盟関係を通じて世界中で過大な負担を強いられていること、世界経済の中で米国が不利な立場に置かれていること、米国が主導してきた自由市場主義的な秩序に終止符を打ち過大な国際的約束から米国を解き放つこと、もっと権威ある強い指導者が必要であること──などがそれで、彼はそのような主張をテレビ番組で流し、1987年には10万ドルを費やしてニューヨーク・タイムズ他に全頁の意見広告を出して訴えた。

確かに彼は、それらをどうやって具体化するかの細かいことは知らないから、通常以上にスタッフ任せになるだろう。しかし、トランプの安保政策顧問は元国防情報局長官のマイケル・フリン将軍で、彼はオバマ政権の政策や自分への処遇に不満を抱いてトランプ陣営に加わり、7月の共和党大会ではヒラリーのメール問題を糾弾する演説に立って「彼女を牢屋にブチ込め! 牢屋にブチ込め! そうだ! 牢屋にブチ込むんだ!」と絶叫し続けた激情家でであり、このような人物を権力に近づけてはならない。

結論。もしあなたが、トランプは核となる外交政策を実行に移すことはないと考えているとしたら、大変な思い違いである。彼は、彼自身よりももっとクレージーな顧問に政策の決定権限を与えるだろう。

米スタンフォード大学アジア太平洋研究センター副主幹ダン・スナイダー教授も同意見で、『東洋経済オンライン』11日付で、トランプの勝利は「単に民主党の大敗とか、その一部に共和党員も含む政治的エスタブリッシュメントの大敗とかを意味するのではない。もっと衝撃的なことに、同氏の当選により、冷戦以降2大政党共通の外交政策の柱となってきた、介入による国際協調主義が明確に否定されたということだ」と述べ、それが日米関係にどのようなインパクトを与えることになるのか慎重に見極めるべきだと指摘している。また、トランプが意見広告を出して「日本人は意図的な円安で得た金でマンハッタンのビルを買い漁っている」ことを非難した80年代から、彼の考えが全く変わっていないことに注意を促し、まだ政権以降の準備も本格化していないこの段階で安倍が慌てて会いに行くのは「果たしてよいアイデアかどうか」と疑問を投げかけている。

いや、私も、トランプが実際に大統領になれば、多少とも現実的な路線を取るだろうとは思っている。しかしかれの思考の核の部分に、長年に渡って培われた徹底的な日本嫌いが潜んでいることを軽視すれば、日本は酷い目に遭うことになるだろう。

image by: Krista Kennell / Shutterstock.com

 

高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋
著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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