さよなら米国。トランプの「米国ファースト」がもたらす世界の終わり

 

ネオコン後遺症との抗争が際どいところまで行ったのは、13年9月のシリア空爆中止の決断で、これは要するに、シリアのアサド独裁政権を倒すのが先だと主張するネオコン、共和党右派、マスコミの大勢、シリアの反体制勢力などの主張が正しいのか、それともIS打倒に全力を注ぐべきだとするアサド政権自身やそれをバックアップするロシアのプーチン大統領の主張が正しいのかという両極の選択肢を迫られる中で、一旦は大きく前者に傾いたオバマがギリギリのところでプーチンの説得を受け入れてアサド爆殺に踏み切ることを回避したという事態である。

多少とも事情を知る者にとっては、答えは明らかで、

  1. アサドを殺したところでいわゆる民主化勢力にはそれに代わって政権を担うだけの能力もまとまりもなく、シリアが「レバノン化」するのみである
  2. シリア領内のISを追い詰めるだけの組織的な軍事能力を持つのはシリア政府軍しかいない
  3. 実際に侵攻してシリア北部の都市を解放して行った場合に、そこで治安を回復し行政機構を再建し経済生活を復興させるのはシリア政府の役目であって、民主化勢力のゲリラなりそれを支援する外国軍にそれを代替させることは不可能である

──等々からして、少なくともISを壊滅させるまではアサド政権をバックアップせざるを得ない。ISが壊滅しシリア政府が国家再建を果たした後にアサドを退陣させるのは一向に構わないが、この戦局で彼に主要打撃を集中させるという戦略設定はあり得ない。

ネオコンは「独裁者を倒せ」一本槍で、オバマがそれに引き摺られずに思い留まったのはよかったのだが、ことほど左様に、オバマの8年間もまた新旧原理のせめぎ合いの連続だったのであり、オバマ自身が「米国はもはや世界の警察官ではない」と繰り返し言いながらも、そこからきっぱり卒業できずに終わったのは残念な限りである。

トランプは、シリアに関しては、アサド政権を擁護してIS壊滅に全力を挙げるという路線のようだが、それが単に親プーチン感情から言っているだけのことなのか、もっと深い考察に基づいているのかは、分からない。ただ、彼もオバマと同様、「米国は世界の警察官ではない」と明言していて、それはそれで結構なことではあるけれども、実は米国が世界の警察官をやめるというのは簡単なことではなく、「や~めた」と言って済むことではない。

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