さよなら米国。トランプの「米国ファースト」がもたらす世界の終わり

 

●12年のNIS 報告書『世界潮流2030年』

今後15~20年間に米国の国際的な役割はどのように進化するか──それが1つの大きな不確実性だ──、また米国は国際システムを作り直すために新しいパートナーたちと共働することが出来るのかどうか、それが将来のグローバルな秩序の姿を決める最も重要な変数の1つとなるだろう。

最もあり得るのは、2030年にあっても米国が他の大国と「対等ではあるがやっぱり一番」という地位に留まることである。なぜなら米国は、パワーのいろいろな領域について優位性と、リーダー的な役割についての遺産を持っているからである。単なる経済力の大きさよりももっと重要なのは、米国の国際政治における支配的な役割がハードとソフトの両面にわたる全般的なパワーによってもたらされてきたことである。

しかしながら、他の国々の急速な台頭によって、あの「一瞬の唯一超大国」は終わり、パックス・アメリカーナ──1945年に始まったアメリカの国際政治における優越の時代は急速に終わりつつある。

他のグローバル・パワーが米国に取って代わって、新しい国際秩序を作り上げるということは、今見通せる限りの時間軸の中ではほとんどあり得ない。新興諸国は、国連、IMF、世界銀行などの重要な国際機関の幹部席を得ることには熱心であるけれども、それらの機関を別のものに置き換えるような構想を持っている訳ではない。彼らは、米国主導の国際秩序に対してアンビバレントな、あるいは嫌悪といえるような感情を抱いてはいるけれども、その国際秩序から利益を得てきたし、米国のリーダーシップに逆らうよりも自国の経済開発と政治的強化を持続させることに関心を注いできた。

彼らの展望は、中国でさえも、地域的な構造を作り上げることに向けられている。米国のパワーの崩壊もしくは突然の退却は、グローバルなアナーキー状態を広げることになりかねない……。

あの「一瞬の唯一超大国」が終わり、パックス・アメリカーナも終わって、米国は他の大国と「対等ではあるがやっぱり一番というステータス確保するのが精一杯であるけれども、その「超」ではない「大国」に巧く軟着陸出来るかどうかは「大きな不確実性であると言う。これは正しい自己診断であって、本当のところこの選挙戦を通じて世界が見ていたのは、その大きな不確実性を米国がどう克服して、多極世界への適合という新しいグローバリズムの展開へと踏み出していくのかということであったのだが、回答はゼロだった

トランプが「世界の警察官を辞める」と言っているのは正しい。しかし、それに代わってどういう多極世界のコントロール秩序を作るのかという展望なしにそうすれば、世界は混沌に転がり込んでいくしかない。

彼にその構想力はなく、従ってトランプ政権はNISの言う不確実性そのものとなって、21世紀的な新秩序の形成を妨げることになろう。

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