金正男の暗殺前に北朝鮮の秘密警察(国家保衛部)幹部ら5人が銃殺されていたということも明らかになっています。嘘の報告をしたことが罪状であり、さらに秘密警察のトップである金元弘も身分を剥奪されて調査されていると報じられています。
そして韓国側の情報によると、金正男の暗殺はこの秘密警察と外交部門が計画、実行したものであり、これら秘密警察幹部の粛清も金正男暗殺となんらかの関係があるのではないかと見られています。親中派・金正男派として粛清された可能性もあります。
北朝鮮を増長させてきた責任は、間違いなく中国にあります。金正日時代から、中国への敵意が顕在化し、そして金正恩になってさらにそれが増大してしまいました。北朝鮮の瀬戸際外交はアメリカと日本を怒らせ、中国の責任を問う声が大きくなりつつあります。
韓国のTHAAD導入決定も、北朝鮮を御しきれなかった中国が招いたことでもあります。THAAD問題で中韓関係もギクシャクしていますし、北朝鮮問題では米中関係も微妙になってきます。
大中華と小中華の関係は、有史以来、宗属関係のままのほうがうまくいくという考え方があります。こうした「天朝秩序」は、歴史の知恵ともいえます。そして朝鮮半島が分裂していたほうが、中国にとっても互いにいがみ合わせ、「夷を以て夷を制する」ことができるので、好都合なのです。
また、チベットやモンゴルといった異民族問題を抱える中国にとっては、朝鮮半島が統一されてしまうと、チベット・モンゴルの独立問題にも発展しかねません。現在のような分断国家のほうが、日米への牽制にもなりメリットが大きいのです。だからこのままの現状維持が望ましく、アメリカによる攻撃で朝鮮統一が実現しては困るのです。
とはいえ、北朝鮮で親中派が次から次へと消されていることも、頭が痛いことではあります。下手に強く出ると、北朝鮮はロシアを頼ることになってしまい、これもマイナスです。韓国への圧力も含めていかにして朝鮮半島を操るか、中国は朝鮮政策を再考しているところであり、それだけに金正男暗殺について中国はあまり多くを語らないのでしょう。中国が迷っているときは、たいていあまり多くを語らないことが多いのです。
とはいえ、すでに金正恩が暗殺されたマレーシアと北朝鮮の関係が悪化し、断交寸前までになっていますし、アジア情勢の急変が、いつ起こっても不思議ではありません。ここ数カ月、朝鮮半島から目が離せません。