関東で地震の発生相次ぐ。江戸から伝わる「前兆」現象は本当か?

2020.06.17
by gyouza(まぐまぐ編集部)
image by: 気象庁image by: 気象庁
 

今年に入ってから、北関東周辺や東京湾、さらに茨城沖などを中心とした地震の発生が相次いでいます。南海トラフ地震の発生ばかりに注目が集まっていた昨今ですが、首都・東京の周辺で頻発する地震が発生するたびに、SNSなどには「首都直下型地震の発生が近いのでは?」と不安視する声が少なくありません。気象庁の発表によると、16日にも午前8時27分頃、千葉県南部を震源としたマグニチュード(M)4.2、深さ50km、最大震度3(同県館山市長須賀)の地震が発生。

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この地震の発生で、SNS上では「もしや首都直下地震の前触れか?」と、朝の関東住民たちをザワつかせました。

地震発生の前兆「宏観異常現象」とは何か?

さて、地震の発生前に、その「前兆」とも言える現象が起こるという話をご存じでしょうか。それが「宏観異常現象(こうかんいじょうげんしょう)」(大きな地震の前触れとして発生ないし知覚されうると言われている、生物的、地質的、物理的異常現象とされるもの)と呼ばれるものです。例えば、古くから言い伝えられているのが「水槽のナマズが騒ぐ」「カラスの鳴き声がいつもより多い」「ネズミが大移動する」といったもの。こうした動植物の異変と地震を結びつける言い伝えや俗信は日本全国にあり、実際に研究をおこなっている大学や研究機関も少なくありません。

「ナマズが騒ぐと地震が起きる」の由来

日本ではナマズと地震の関係が古くから注目されています。日本中で言い伝えられている俗信や迷信などを集めた鈴木棠三・著『日本俗信辞典 動・植物編』(1982、角川書店)を紐解くと、「鯰(なまず)」の項に、以下のような記述がありました。以下にある安政二年の地震とは、「安政江戸地震」と呼ばれる1855年10月2日(現在の11月11日)発生の江戸直下を震源とするM7クラスの巨大地震のことです。

『安政見聞誌』の上巻に、安政二年の江戸の大地震の際、ナマズの騒ぐのを見て地震の来るを知り、難をのがれた男の話が見えている。一説に、ナマズは地震前の地電流に敏感に反応し騒ぐのではないかといわれる。ナマズが多くとれる時は地震ありと、ひげにあぶくの生ずる時は地震近し、ともいう。

やはり江戸の時代から「ナマズが騒ぐと地震が近い」という俗信が信じられていたようです。江戸時代には大ナマズが地下で暴れることで大地震を起こすという民間信仰があり、安政の地震以降にナマズが大暴れする様子を描いた「鯰絵(なまずえ)」と呼ばれる多色刷りの浮世絵が多く残されました。地震だけでなく、当時の世相を皮肉ったものや、幕府への不満なども込められているため江戸幕府が禁止したという過去もあります。

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image by: 匿名Unknown author / Public domain( 江戸時代の「鯰絵」)

現在でも、公共機関などが地震に関するパンフレットなどを作成する際に「ナマズ」のイラストをあしらっていることがよくあります。日本国内では今も昔も「ナマズ」が地震前兆のシンボルになっているというわけですが、ここに出てくる聞き慣れない『安政見聞誌』(あんせいけんもんし)とは何の書物でしょうか。国立公文書館のHPによると以下のような解説が出ています。

文明開化の世相を描いた『安愚楽鍋(あぐらなべ)』などの著者として知られる仮名垣魯文(かながきろぶん)(1829―94)が著した安政江戸地震のルポルタージュ。震災の年に脱稿し、安政年間に刊行されました。全3冊。絵師は歌川国芳(うたがわくによし)ほか。内容は『安政見聞録』よりはるかに豊かで、江戸各地の被害状況はもとより、新吉原で穴蔵に避難した遊女が全員焼死した話や地震の前兆(鯰(なまず)の異変、磁石が磁気を失ったこと)など、災害時の心得や地震予知に関する貴重な情報が記載されています。

江戸時代の安政3年に発生した地震にも、当時の被害状況などを記録するルポルタージュが出版されていたことに驚きました。さて、この『安政見聞誌』ですが、上記を見ればナマズ以外にも重要な「宏観異常現象」に関する記述があることが分かります。「磁石が磁気を失った」という部分です。

安政地震の発生前に「磁石が磁力を失った」という記録

東京・港区立港郷土資料館の「港区立港郷土資料館へ行ってみよう 第11号(2014年3月発行)」(注:PDFが開きます)には、件の『安政見聞誌』に掲載されている「地震計」の図について、

地震計は、江戸時代に考案された地震予知器です。安政の大地震の前に磁石が磁力を失ったという話をもとに作られました。現在でも地震予知は難しいのですが、江戸時代から、このような試みが行われています。

と、安政の地震前に磁石が磁力を失ったことが書かれていることを紹介しています。その記述とはどういったものだったのか、東京都立図書館の公式HPには所蔵資料である『安政見聞誌』に関する記述に、以下のような資料解説が記されていました。

「10月2日の地震の一時(いっとき)ほど前、浅草の眼鏡屋に置いてあった磁石から吸い付いていた古釘などが悉(ことごと)く落ちたという。そのエピソードに続き、地震時計の図が紹介されている。原理は磁石に釘を吸いつけておき、地震の前に磁石が引力を失ってこの釘が落ちると、時計仕掛けが作動し「りん」を打って予告するという」

上記のとおり、江戸・浅草のメガネ屋さんに置いてある磁石に付いていた釘などが地震発生の一時(いっとき、約2時間)ほど前に落ちたというエピソードが書かれていました。磁石の磁力低下と地震の関係については、以前から「冷蔵庫に貼っていた磁石が一斉に落ちた」という宏観異常現象が報告されており、上記の「地震計」を応用した「鈴落下装置」という磁石を使った地震予知の装置の作り方もネットに出回っているようです。江戸時代の人たちが教えた「ナマズ」や「磁力の低下」という地震の「前兆」が、現代の地震予知研究に役立つ日がくるのかもしれません。

三浦半島で「異臭」騒ぎも。地震の前兆は本当にあるのか?

最近では6月4日夜に、神奈川県の横須賀市を中心とする三浦半島全域で、500件以上の通報が寄せられた謎の異臭騒ぎがあり、SNSなどのネット上では「首都直下地震の前兆ではないか」と話題になったこともありました。事態を重く見た横須賀市は4日夜、ツイッターの公式アカウントで異例の報告を投稿しています。

以上、地震の「前兆」と言われる古今の現象についてお伝えしてきましたが、他にも多くの報告がネット上で投稿されています。奇妙な形の雲が出ている、地鳴りが聞こえる、沿岸部から異臭がする、ナマズが騒ぐ、カラスが騒ぐ、井戸水の水位がおかしい、聞こえるはずのない遠くのFMラジオが聞こえる等、あなたは何か最近異変を感じたことはありませんか?

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地震の前兆? 投稿された「宏観異常現象」ツイート






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