大神社の宮司人事や、疑惑の不動産売買で揺れる神社本庁にあって、田中総長は昨年来、それらをめぐる“怪文書”に対し名誉毀損で刑事告訴する構えを見せた。
一方で、小串和夫・副総長は、不動産疑惑に関する調査委員会を立ち上げたが、委員会は売買手続きに問題はないという結論を下した。このため小串氏が辞職するなど、神社本庁は混迷を深めていた。
今回、田中総長が辞意を漏らすに至ったのは、そうした事情が影響していると考えられる。
神社本庁は、役所のようなイメージがある。神職が官吏だった時代の名残で、国家の機関と混同されやすい。しかし実際には民間の一宗教法人にすぎない。あえて、混同されやすいようにする意図が、創設した人たちにあったのではないか、という見方もできる。
戦後間もなく神職を官吏の立場から追いはらったのが、GHQが発した「神道指令」だ。これで神官は法的に存在しなくなった。
その後すぐに、神社本庁が発足し、伊勢神宮を本宗とした。陸軍省と海軍省が所管してきた靖国神社と、伏見稲荷は本庁に包括されなかった。
一方で、その傘下には出雲大社や各八幡宮のように、必ずしも伊勢神宮を本宗とすることに同意しない神社も含まれていた。「そこには根本的な矛盾があった」と島田氏は言う。
神道は教祖もいなければ、経典もない宗教だ。神社本庁の最大の目標は、本宗である伊勢神宮の価値を高めることとなった。天皇を中心とした国家づくりをめざす政治的な活動に力を入れる理由はそこにある。
神社本庁とその地方機関である神社庁は、政治団体「神道政治連盟」と“一心同体”の関係だ。神社で憲法改正賛同の署名活動が行われる光景を目にした方もいるだろう。
自民党国会議員の大多数は、安倍晋三氏を会長とする神道政治連盟国会議員懇談会や、麻生太郎、安倍晋三両氏が特別顧問をつとめる日本会議国会議員懇談会のメンバーである。
権力や地位やカネは欲におぼれる者の一種の麻薬であり、揉め事や暴力沙汰の温床だ。人の心を鎮めるはずの宗教界でさえこのありさまだから、選挙に明け暮れる政治家たちに高い精神性など求めようがないが、せめて国民にウソをつかない倫理観くらいは持っていてほしい。
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