健康飲料としての価値訴求でブランド力の底上げへ
しかし、そんなカルピスに思わぬ危機が訪れる。1980年代に入ると自動販売機が普及。缶入り飲料が当たり前になり、ひと手間が必要なカルピスは低迷していく。
「お茶やコーヒーなど、それまで家庭内で飲むものだったのが、いつでも自動販売機で買えて、外に広がっていきました。その中で売り上げは不振になっていきました」(岸上)
1988年、カルピスはついに赤字に転落、起死回生の新商品が求められた。自販機時代に対応する、新しいカルピスの開発が急務となったのだ。
1991年、難産の末に完成したのが、そのまま飲める「カルピスウォーター」。その初代販売マネージャーを務めたのが現社長の岸上だった。
当時、岸上はカルピスを水で薄めた飲料がそれほど売れるとは思っていなかったと言う。「ブランドそのものに対する自信を失っていたのかもしれません。売れるとは思いましたが、そこまで大ヒットとは思っていなかったですね」(岸上)
ところがいざ発売すると、カルピスウォーターは空前の大ヒット。1年で、当初見込んだ5倍が売れた。
「もう本当に頭をガーンと殴られたような感じで、一番カルピスのことを知っていないといけない自分がそういう判断をできなかったと思い知らされたという記憶が強く残っています」(岸上)
この大ヒットで岸上が気づかされたのは、消費者が持つカルピスブランドへの期待の大きさだった。しかしその一方で、カルピスそのものの価値は知られていない。そこで2015年、社長になった岸上は、内モンゴルを舞台に、三島海雲の体験をそのまま映像で表現したCMを打つ。バックボーンを伝え、健康飲料としての価値を訴えたのだ。
「脈々と積み重ねてきた乳酸菌研究によって健康価値を深掘りしてきたので、健康というキーワードをより際立たせて、乳酸菌で健康になれることを認識をして頂きたいと」(岸上)
そして2016年には「濃いめのカルピス」を発売、これまでとは違う中高年層の客の開拓に動く。さらに2017年には機能性表示食品の「カラダカルピス」を発売。もともと健康飲料のカルピスだが、さらに価値を高めた商品を投入したのだ。すると原液タイプのカルピスの売り上げも上昇。見事、ブランド価値の底上げに成功した。
さらに次なる一手として、今度は頭をサポートするカルピスも。新たな機能性表示食品として2019年秋に発売予定だ。