以前掲載の記事「『廃墟マンション騒動』に見る、日本中でアスベストが飛散する日」で紹介した滋賀県野洲市のマンションですが、その解体工事がようやく終わったことが各メディアにより伝えられました。費用負担を巡っては、今後、県、市、区分所有者の間で話し合いが持たれることになりますが、どのような決着を見るのでしょうか。今回の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』では、著者でマンション管理士の廣田信子さんが今後の動きを占うとともに、行政としては慎重に進めるべきとしてその理由を記しています。
区分所有者が負う廃墟マンションの解体費用は1,300万円
こんにちは!廣田信子です。
先日、マンションの区分所有者の責任の重さを考えさせられる逗子斜面崩落事故の話を書きました。
● 女子高生土砂崩れ死亡事故で痛感する、土地所有者に問われる責任
もうひとつ、区分所有者は、その責任から逃れられないと改めて感じさせられる話がありました。
2019/03/04の記事「『廃墟マンション騒動』に見る、日本中でアスベストが飛散する日」で紹介した、滋賀県野洲市のアスベストむき出しの廃墟マンションの解体工事が、6月末、ようやく終わりました。野洲市が空き家対策特別措置法に基づき行政代執行したものです。
昨年の時点での報道では、解体費用は、アスベストの処理費用も含んでいるので、5,000万~6,000万かかる可能性がある…と。これでも、すごい金額だと思いました。9人の区分所有者がいますから、5,000万としても、戸当たり560万円です。
しかし、現実はもっと厳しいものでした。解体費用は、その後の調査で、当初の試算の2倍の約1億円かかるとされました。さらに、1月から野洲市によって解体工事が始まると、建物内部の崩壊が想像以上に進んでいたため施工方法を見直さざるを得なくなりました。3月26日までだった工期も見直しが必要になり、6月末までに延長されたのでした。そして、工法変更に伴い、費用も約1,700万円増加し、総額1億1,800万円にまでなったのです。
野洲市は、7月18日に代執行の終了宣言を行った後に、区分所有者9人に費用を請求するとしています。請求するのは、当然と言えば当然ですが、金額がすご過ぎます。1人1,300万円です。すでに廃墟になっているものを解体するだけで、1,300万円の請求がくるのです。
簡単に支払える金額ではなく、市は回収の見通しは立っていない…と。今後、どこまで厳しく取り立てるのか…が気になります。
市は、区分所有者から回収できなかった分は、建築基準法に基づく勧告を長期間放置してきた責任があるとして、滋賀県にも費用を請求すると言います。区分所有者が、どこまで支払えて、残額を市と県がどのように費用を分担するのかが、注目されます。結論が出るまでには、長い時間がかかると思われます。
市と県が負担するということは、どちらにせよ税金から支払うということです。結果的に解体工事が公費で行われるとなると、管理不全マンションを放置してスラム化したら、行政が解体してくれるから、使いつぶしてもだいじょうぶ…なんて思われかねないので、行政としては、慎重に進める必要があると思います。
中に入るのさえ危険な状況になる前に解体していたらこれほどの解体費用は掛からなかったでしょう。区分所有者としては、事情があって住まなくなったマンションをそのままにしていた…それだけだったのかもしれません。でも、区分所有者は、所有者としての責任を見逃されることはないのです。
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