そして、その1年後、私は愕然とさせられ、しばし、ものも言えない状態に陥りました。ネットに流出した情報のうち海軍の艦艇の通信網の穴が塞がっていなかったのです。なんと、流出したときのまま放置されているではありませんか。130隻の主要艦艇の専用回線の電話とファックスの番号が1年間にわたって丸見えの状態になっていたのです。敵国やテロリストが、1台のパソコンでこの国の海軍を混乱状態に陥らせられることは、簡単だとわかりました。
サイバー取材班には、私は意識して通信網の脆弱性を指摘しませんでしたから、新聞の記事にはなっていません。それもあって、ハッカーなどにも気づかれずにすんだのでしょう。あるいは、中国やロシアの軍部や情報機関は、世界有数の海軍がそんなバカなことをする訳がないと、ネット上の情報をフェイクだと受け取ったのかも知れません。不幸中の幸いでした。
さらに1年後、私はこの国の国防大臣の会議に呼ばれ、陸海空軍の問題点を指摘するよう求められ、海軍については通信網の脆弱性が放置された問題を報告しました。
このように、情報の流出について新聞が気づかなければ、多数の脆弱性がネット上にさらされ続けたことはいうまでもありません。これは偶然の出来事でしたが、意識的にマスコミが軍の防衛態勢の問題点を検証し、脆弱性を発見することもあります。マスコミはそれをもっともっとやるべきなのです。脆弱性が放置されているとしたら、それは軍の落ち度や怠慢の産物で、国民を危険にさらしているのですから。
国防省と軍は、マスコミの検証に腹を立ててはいけません。敵の情報幕僚はこちらの脆弱性を探しているわけで、それよりも早くマスコミが発見し、教えてくれることは、むしろ有難いことなのです。(小川和久)
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