なぜ、昨今のクイズ番組にあふれる「高学歴芸人」は面白くないのか?

 

高学歴の限界

東大を頂点とする偏差値序列上位大学卒だからというだけで、卒業後のキャリアが保証される時代ではなくなった。

私はそうそうたる超高偏差値大学・大学院卒の学生の就職指導に長年携わっているが、大学名の効果は十二分に理解しているものの、大学名だけで就職が決まるほど、現在の企業が甘くないことも熟知している。高偏差値大学でも、在学中に就職の目処がつかず、延々就職活動を強いられたり、就職できずに卒業を迎える学生は毎年いる。

繰り返すが、高偏差値、高学歴に価値がないのではなく、実社会では、実力の伴わない、単なる高学歴「だけ」の人間は淘汰されてしまうことが全く珍しくなくなった、企業社会の現実を言っているのである。

芸人として世に出る以上、そこには超人気スターの子供であれ、他分野での素晴らしい実績であれ、「笑い」という水増しのできない偏差値一本で評価される。M-1暴言事件のように、この偏差値は受験のような、単純で明確な尺度ではない。不合理さや運不運も内含した理不尽さを乗り越えた者だけが手にできるものである。イケメン・美人ではない顔や肉体も笑いの武器である。ただしそれだけで笑いがとれるほど、笑いの世界は甘くはない。

笑いを生み出す能力の無い人間は、どれだけ他の肩書きがあっても「芸人」とは呼べないだろう。

ビジネスで成功した「元」芸人

一旦は芸人として人気を得た後、笑いを捨て、シリアスな芸能に行ったり、芸能から離れてビジネスに進む人もいる。元お笑い芸人という抜群の知名度を活用すれば、インターネット中心に一定のビジネスができる環境は存在している。そこで何万部の本が売れようが、何億円のビジネスができようが、それは「お笑い」ではない。

長い間、たけし軍団やダチョウ俱楽部は「下品なだけだ」との批判がされてきた。全裸になったり尻を出すだけなら誰でもできると言われた。しかし笑いの押し引きや、裸になるタイミング、また個人芸ではなく集団芸として、チームワークで笑いに向かって盛り上げていく構成もできないただの素人が尻を出したところで、笑いなど起きる訳がない。

大学サークルの素人程度では、プロの笑いなど作ることはできない。片岡鶴太郎さんは、一時期お笑いを捨てたと言われた時期があったが、その前にすでにオデン芸や村西軍団などの下品な芸風で笑いを確実に取っていた。その上で大河ドラマ太平記での北条高時の名演技や、ドラマ男女7人シリーズの引いた演技などで俳優としての実力を見せつけた。ビートたけしさんや明石家さんまさんのように、爆笑コントを積み重ねてきた人たちにとって、シリアス演技はむしろ楽なのかもしれないという感覚すら与えるほど、お笑い芸人の実力者たちの演技力は飛び抜けている。

笑いという、人類の叡智によって、われわれに幸福な時間を与えてくれる芸人という仕事に、私は心から尊敬と感謝しか感じない。一方、その一番肝心な仕事で活躍することなく、どれだけ名声を得ようが、大金を稼ごうが、それはただの「ビジネスの成功」に過ぎない。

今この時、食うや食わずの生活で、あるいは芸人としての収入がバイト給料の1/10にも満たないものであっても、「笑芸能」は人類にとって欠かせない仕事であり、その笑い作りをあきらめない限り、収入は乏しくとも、その人は確実に芸人なのだ。

芸人を捨てて得た富と名声は、単に成功したビジネスパーソンの1人でしかない。超高学歴でも、差別や下品なコントで爆笑を世界に広めることができた「モンティ・パイソン」。彼らへの賞賛は、決してオックスブリッジ卒だからではない。

学歴も収入も関係なく、腹の底から笑わせてくれる芸人さんに、心より感謝を述べたい。

image by : 1000 Words / Shutterstock.com

増沢隆太

増沢隆太

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「謝罪のプロ」として著名人記者会見のたびにテレビ、ラジオ、新聞でコメントしまくるコミュニケーションのプロ。ロンドン大学大学院では戦争研究を行い、帰国後外資系企業数社でブランドマーケティングを担当した。その後、人事コンサル会社勤務を最後に独立し、人事・経営コンサルタントとして活躍。現在は講演、企業研修、大学生向け講座などで全国を回るほか、東京工業大学の特任教授も務めた。

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