プーチンの狂気を悪用する、ウクライナ紛争で“得をした”人物リスト

 

少し目線を変えると、損失を被っている別のグループがいます。

それは、対ロシアでアメリカと共同歩調を取る欧州諸国と日本です。

EUと日本で共通することと言えば、「エネルギー資源の輸入に対するロシアへの高い依存率」です。

先述のようなエネルギーコストの著しい高騰は、それぞれの経済への打撃となってじわりじわりときいてきます。このショックの大きさは、シェール革命でエネルギー自給自足が可能で、すでにエネルギー資源の輸出国に転換しているアメリカよりもはるかに大きくなりがちだと分析されています。

「プーチンを許さない」という同盟の旗の下、対ロ制裁に乗り出していますが、それによって被るコストに経済がいつまで耐えられるか。そして、それをいつまで国民が「ウクライナの人々との連帯」という大義名分をもって許容してくれるか。先の見えないリスクが黙々と拡大しています。

別のアングルから見てみると、欧州各国(特に東欧諸国)と日米の置かれている状況が違います。

今回のロシアによるウクライナ軍事侵攻によって、これまでに330万人を超える国民が周辺諸国に逃れ、隣国ポーランドに至っては200万人に達するという状況になっています。それらの国に留まる人もいれば、そのままドイツや北欧諸国に移動していくグループもいます。

人道的な配慮から、比較的迅速に難民の受け入れが行われていますが、長引く紛争と難民の流入は、今後、各国内での社会的な不安につながる可能性があります。

2015年のシリア難民受け入れ問題時とは、状況は異なると言われていますが、社会的な不満や不安を煽る勢力が拡大してくると、各国の政治社会的な問題が表出してくるかもしれません(実はこれ、ロシアのお得意分野です)。

その点では、受け入れはゼロではなく、日本に至っては非常に例外的な人数を人道的観点から特別に受け入れていますが、それでも地続きの欧州各国と比べるとはるかに少なく、皮肉を込めて言えば、欧州各国に支援は行っても、口先だけの介入で済んでしまいがちという、コストの偏りが生じがちです。このコストの偏りについては議論が表出してきませんが、ブリュッセルで開催されるNATOおよびG7緊急首脳会議で、何かしらの不協和音が出てくるかもしれません。

難民受け入れ問題以外には、欧州各国、特に東欧諸国は、いつ戦火が広がってくるかとの不安と隣り合わせという心理的なコストも大きいと言えます。

アメリカは、米ロの直接的な核戦争にでもならない限りは、直接的な被害は受けませんし、最近、噂されるロシアによる化学兵器と生物兵器使用の恐れが仮に具体化してしまった場合にも、直接的に悪影響を受けるのは、東欧諸国です。このリスクへの対応も、今後、早急に議論されなくてはならないでしょう。

そして、少しアングルを変えると、日本も間接的な安全保障上のリスクに直面します。直接的な紛争による飛び火はないですが、安全保障上、頼りにするアメリカのフォーカスがウクライナ・ロシアに向けられる中、必然的に北東アジアにおける米軍と国際的な関心が手薄になることで、北朝鮮・中国(そして韓国も)による揺さぶりに直面することになります。

その典型例は、連日報告される北朝鮮によるミサイル発射です。ICBMと思われる弾道ミサイル発射実験が繰り返され、すでに核兵器を保有していると思われる状況下で、北朝鮮が行う瀬戸際外交がはらむリスクはこれまでにないレベルにまで達すると懸念されます。

中国も、期せずしてウクライナ紛争関連でコミットメントの有無が噂されていますが、フォーカスは常に台湾およびアジア周辺に置かれており、実際に、尖閣諸島問題を含み、多様な圧力および威嚇を続けています。日本はG7諸国と歩調を合わせてウクライナ問題に対するとのことですが、それと並行して北東アジア地域における自国の安全保障に対しての配慮が、これまでになく必要になってきています。

ウクライナへのロシアによる侵攻が、期せずして、国家安全保障問題の懸念増大につながってしまったという、見方によっては“損をした”と言えるのかもしれません。

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