最高裁を動かした「やり切れない殺人事件」
ここに谷口優子という弁護士が書いた『尊属殺人罪が消えた日』(筑摩書房)という本がある。
1968年秋のある日、「不倫な父娘関係の精算 事実上の夫を絞殺」とセンセーショナルな見出しが新聞に踊った。そして次のように事件が要約されている。
「Y市の市営住宅で、戸籍上は親子関係にありながら事実上は夫婦関係にあった娘が実父を絞め殺すという猟奇的な事件が起こった。15年前に父親が実の娘を手ごめにして、夫婦関係を結んだことに端を発し、それまでの正妻が家出、一家が離散するというのろわれた家系で、父親と加害者の娘との間には3人の子どもまであるという常識では考えられない生活をしていた」
刑法200条の尊属殺人罪は「死刑又は無期懲役」で、執行猶予はつけられない重罪だった。しかし、親殺しはこの例のようによくよくのことである。
ところが、大日本帝国憲法下に制定された刑法は家族国家のイデオロギーから、義理を含めて親殺しを他の殺人罪より重くしていた。
これに対して、この事件を担当した弁護士の大貫大八は、尊属殺重罰は日本国憲法14条の法の下の平等に違反すると訴えた。一審はその主張が認められたが、高裁でひっくり返り、最高裁に持ち込まれる。
途中で大貫大八が亡くなり、弁護は息子の正一が引き継いだ。
そして、1973年4月9日、最高裁は尊属殺重罰は違法という画期的な判決を下す。
「尊属に対する尊重や報恩という自然的情愛ないし普遍的倫理の維持尊重の観点からは尊属殺人を普通殺人より重く罰することは不合理ではないが刑法200条が尊属殺の法定を死刑・無期懲役に限定している点において甚しく不合理であり、憲法14条に違反する」
これが判決理由である。
統一教会信者の親が子に押しつける「幸せ」の傲慢
「世界平和統一家庭連合」と改称した統一教会は「ハッピーFamily講演会」への参加の勧誘のチラシを配る。
「どうしたら幸せになれるか?」をテーマに、幸せのヒントを提案する講演会だという。
しかし、親が子どもに押しつける「しあわせ」で、子は「しあわせ」なのか?
母親を狙わなかった山上は戦後28年経って尊属殺人罪がなくなったことを知っていただろうか?
知らないままでいるのではないか?
統一教会については私の新刊『統一教会と改憲・自民党』(作品社)を参照してほしい。(文中敬称略)
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image by: Robert Granc, CC BY-SA 4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で