そのかんぽが、実績の3倍の「ノルマ」を課した、と。むろん営業目標は必要ですし、ノルマを課すことは、どんな企業でもあります。しかし、不祥事発覚後、不正を生んだ原因に経営陣は正面から本気で向き合ったのか、甚だ疑問なのです。
なにせ、19年に発覚した不正は「起こるべくして起きた事件」としか私には思えないからです。もう15年近く前になりますが、日本郵便労組主催の講演会に呼ばれた時、「パワハラが多くて困ってる。どうにかならないものか」という声を聞きました。
民営化でそれまで1つだった会社が3つに分割され、人間関係が悪化。さらに過剰なノルマが課せられ、パワハラが増え、うつになる社員が増えていると嘆いていたのです。
その後も何回か日本郵政グループの組合主催の講演会に呼んでいただいたのですが聞こえてくるのはパワハラ問題ばかりです。「恫喝研修」「懲罰研修」という言葉は何度も耳にしましたし、その実態を話してくれた人もいました。
要するに、組織構造そのものに病巣があり、現場ではなく組織を腐敗させた経営側の問題が、不正に走る社員を生んだのは明らかです。なのに19年の不正発覚後、厳しい処分を下されたのは現場の、実際に不正に手を染めた社員ばかりでした。日本郵政グループのトップは引責辞任しましたが、社外取締役も含めた経営陣の刷新は行われていません。
むろん組織文化を変える改革は行なったようです。しかしながら、現場で今も働く人たちにコンタクトしたところ、「何も変わってない」という意見が聞かれました。
中には「以前より働きやすくなった。組織が変わろうとしてる空気を感じる」という前向きなコメントもありましたが、「パワハラはいまだにある」「現場の声が届いてないと感じる」という人は決して少なくありませんでした。
そもそもいまだに半官半民という昭和型の組織構造を続けてること自体に、相当の無理がある。日本郵政の株式の60%近くを政府がいまも保有しており、完全な民営化とはほど遠いのです。
つまるところ、19年にトップらが会見した際に感じた「経営と現場の距離」は変わってないのではないか。そこで厳しいノルマを課した先にあるものは?
みなさんのご意見、お聞かせください。
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