プーチンに武器供与するか否か。習近平が自ら陥った「危険なジレンマ」

 

プーチンから台湾併合の支持取り付けを確保した習近平

中国への評価改善を後押ししたのが二つ目の【ロシアとの一定の距離感の演出】です。

「同盟を結ばず、対抗せず、第三国を標的にはしない」という中国外交部がこれまで繰り返してきた外交姿勢をロシア政府も受け入れたことで、ロシアべったりではないかとの疑念を払しょくすることに寄与しただけでなく、中ロ間の力のバランスが大きく変わったこともアピールできました。

これは中ロ間での直接対決がないことを相互に認め合い、互いの利益を尊重することを確認しあっていると解釈できますが、何よりも中ロが結託して第三国を攻撃しないという点をロシアにも表明させることによって、「中国とロシアが必ずしも行動を共にするわけではない」というように、今回のウクライナ対応においても“違った対応を取りうる”オプションをきちんと残しておくことにも余念がなかったと思われます。

そして同時にロシアサイドがずっと要望していた中ロ間の経済協力については、共同宣言において言及はしたものの、数値目標的なものはほとんど含まず、国際社会が実施する非常に厳しい対ロ制裁の煽りを受けないようなセーフガードも設定することに合意させています。

支援の有無と可否については、実際のところはどうなっているのかブラックボックスの中ですが、表面的には中国とロシアの関係の近さをアピールしつつ、適度な距離感と温度差があることもアピールして、中国の独特の立ち位置を確保しようとする試みが見て取れます。

そして中国としては宿願であるOne Chinaと台湾の併合に対して、ロシアからの完全な支持取り付けを確保しました。

「中国が主権と領土保全のためにとるあらゆる措置を断固支持する」という文言ですが、これはこれまでの「一つの中国という認識」というロシアのスタンスからかなり踏み込ませた内容であり、もし中国が台湾情勢において何らかの決断を下す際、ロシアはその決断を支持し、そして支援することにコミットしたというように解釈が出来ます。

ここまで見ると習近平国家主席の完全勝利的に見えるのですが、当のプーチン大統領はなぜかご満悦の様子だそうです。

中国の思惑通りに運ばれたように見えますが、なぜでしょうか?

理由はいくつかありますが、その一つ目は【自身の要望に応えるかたちで習近平国家主席が訪ロし、そして再度、“プーチン大統領は親友”と言及し、寄り添う姿勢を示した】からのようです。

中国およびロシアに確認したのですが、習近平国家主席が就任後、最も外遊で多く訪れたのがロシアで、国家資本主義体制の構築と拡大のためにこれまで協力関係を強めてきたことを相互に確認しあい、その協力を維持・拡大することに合意したことは、プーチン大統領の体制の維持につながるアピール材料となったとの理解です。

二つ目は【習近平国家主席がロシアのこれまでの行動に一切言及しなかったこと】です。

それは昨年2月24日以降のウクライナ侵攻への非難を行っていないことのみならず、仲裁受け入れに当たってのロシア軍のウクライナからの撤退の必要性にも言及していません。そして昨年、ロシアが一方的に編入・併合した東・南部4州の返還についても求めていないことで、ロシアとしては「中国は現時点での情勢で戦闘を凍結し、停戦を認めるのではないかとのロシア側の理解に繋がっているようです。

普通に考えれば「現状での凍結」という停戦条件をウクライナが受け入れる見込みはないですし、国内からの反対意見にも対応しながら対ウクライナ軍事支援を行うNATO各国も認めることはないと思われますが、中国の一種の賭けを成功させるかどうかのカギは【中国からロシアへの武器供与の有無と可否】にかかっていると思われます。

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