プーチンに武器供与するか否か。習近平が自ら陥った「危険なジレンマ」

 

2027年までの台湾侵攻準備を人民解放軍に命じた習近平

実際に習近平国家主席は人民解放軍の幹部に対して「2027年までに台湾を軍事的に侵攻できる準備を進めよ」と命じているようで、台湾情勢への対応のための時間稼ぎという見解は強ち間違いでもないように感じます。

しかし、この“準備”がイコール“台湾攻撃”を直接的に意味するのかどうかは定かではありませんが、問題は【欧米諸国、特にアメリカがこれをどう認識して、行動するか】という点でしょう。

その時のロシア・ウクライナ戦争の戦況と、アメリカ国内での対ウクライナ支援への機運の度合いなどにもよりますが、バイデン政権の外交政策がアジア全域に傾倒していることから、極端なケースではウクライナを見捨ててでも中国との対峙を選ぶ可能性が高まります。

ロシアに武器供与をしても危険だし、しなくても危険性が高まるというジレンマに、中国は自らを陥れた可能性がありますが、どうもプーチン大統領はその状況をよく理解しており、ゆえに“ロシアの一方的な負けではなく、引き分け以上だ”と感じて、ご満悦なのかもしれません。

では中国は実際にどのように対応しようとしているのでしょうか?

【仲介者の役割をできる限り演じ続けながら、同盟国であるイランや北朝鮮経由で間接的にロシア支援を実行して、プーチン政権の弱体化・崩壊を阻止する】という戦略を取るかもしれません。

また、先日、イランとサウジアラビア王国の歴史的な和解の演出をし、両国がロシアと築いている良好な関係もうまく利用しながら、サウジアラビア王国とその仲間たちも対ロシア支援の窓口として使うというウルトラCも画策しているかもしれません。

ここで行おうとしているのは欧米諸国に対する目くらませを行って、時間稼ぎを行うという魂胆ですが、この戦略の基礎になっているのが、【欧州は中国経済への依存度が高く、欧州市民の生活の維持のためには中国との関係を切ることはできない】との読みがあり、「対ロ制裁のような徹底的な経済制裁を中国に対して行うことは不可能」という分析と認識が存在します。

確かに、賛否両論はあるものの一帯一路政策を通じてアフリカ大陸や中東諸国、南アジア諸国、東南アジア諸国、中南米諸国との間で強固な経済的なつながりを構築し、欧州圏での対中貿易への非常に高い依存度、レアアースの豊富な埋蔵量とそれに支えられた市場支配力などに鑑みると、中国を短中期で経済的に封じ込め、野心の達成を阻むことは至難の業に思えるため、無傷では済まなくとも、中国は比較的強気の対応をしばらくは選択し、自国の勢力圏の確保と拡大に勤しむことになると思われます。

ただ、タイムラグは生じるでしょうが、どのみち、米中の直接対決は起こるだろうと予測します。

経済面での衝突と対立はさらに強化されることになり、軍事的な対峙も、アジア太平洋地域(インド太平洋地域)という括りはありますが、圧力が高まることになるでしょう。

ただし、直接的な交戦は、台湾情勢などをめぐる米中間の偶発的な衝突や、台湾の軍事的な暴発といった事態がなければ起こる可能性は低いと思われます。

それは、今、私たちが「もしロシアがウクライナで核兵器を使用したら、本当にロシアに対して核兵器または通常兵器で報復にでるか」というトピックスで考えるように、「もし中国が台湾に武力侵攻を試みたらアメリカは、日本は、AUKUSは台湾防衛のために中国と戦うのか」という恐ろしいシナリオを考えることに繋がります。

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