プーチンに武器供与するか否か。習近平が自ら陥った「危険なジレンマ」

 

習近平がロシアに武器を供与する可能性はあるのか

中国としてはロシアとの微妙な距離感を表現しつつ、プーチン大統領は習近平国家主席の親友であるがゆえに「中国はロシアの敗北と弱体化を座視しない」というメッセージを、武器供与の可能性を仄めかすことで、欧米各国に“ロシアが受け入れ可能な条件での停戦”を迫るという賭けに出ているように思われます。

ちなみに中国によるロシアへの武器供与は、国際社会における中国の立ち位置を占ううえでも大きなギャンブルとなりうるカードだと考えます。

もし供与に踏み切った場合、欧米との直接対決は不可避となり、さらにプーチン大統領が国内の過激派の意見に押されて核兵器使用に踏み切った場合、世界第三次大戦の幕開けを迎える危険性が生まれ、中国はその世界戦争に主体的に巻き込まれることになります。

その場合、台湾ではなく、ロシア・ウクライナそして中央アジア・コーカサスという自国の領土外での大戦争を、アメリカと戦うことに繋がりかねず、中国と習近平国家主席にとってそれは大変な安全保障上の危機を迎えることを意味します。

しかし、そのような危険を冒してでも武器供与に踏み切る可能性があるのは、先述の通り、親友であるプーチン大統領が今回のウクライナ戦争で敗北したり、国内での支持を失ったりして、失脚するような事態になった場合、ロシアにおいて親欧米政権が成立する可能性があり、それは中国の国益を著しく損ねることになるとの分析があるため、習近平国家主席にとってはプーチン政権の存続は至上命題と言われています。

とはいえ、果たして第三次世界大戦に巻き込まれる危険性を冒すほど重要なのかという疑問も中国政府内にはあるそうで、そのグループは「ロシアへの直接的な武器供与を行わないことで、欧米諸国との緊張度合いはまだ現状維持でmanageableであり、近未来的にはアメリカとの緊張関係は緩和できずとも、欧州と米国を切り離し、まだまだ中国への経済的な依存度が高い欧州各国との関係修復は可能だ」と考えており、まだ習近平体制内でも状況を見極めながら決断を下せていないとも言われています。

現時点では武器供与の有無と可否については結論を出さず、中国が取りうるカードとして見せながら、ポスト・ウクライナの世界のかじ取りにおいて中国に有利な状況になるタイミングを見計らっているように見えます。

武器供与を行うか否か。

どちらの選択肢に傾くにしても、中国政府が持つ目的は「アメリカの軍事的・経済的な焦点を中国に集中させないこと」、言い換えると「アメリカの軍事力や経済的な圧力の分散」です。

今回のロシア訪問において前面に打ち出されたのは、武器供与の可能性については答えを出さず、仲裁案を示してロシア・ウクライナ戦争の解決のかじ取りをすることで、アメリカの注意をそちらに傾けさせて、中国本土および台湾情勢に対するコミットメントを弱める方針でしょう。

軍事的な衝突という状況を回避しつつ、米国との適度な緊張は維持したまま、米国や欧州がウクライナ支援にリソースを回している間に、中国は着々と台湾併合に向けた準備を進めるという戦略です。

もしウクライナのゼレンスキー大統領が中国の仲介案を積極的に検討し、ロシアとの直接的な停戦に向けた対話に臨むことになれば、この戦略が活きることになるでしょう。

しかし、「ロシアとの徹底抗戦の姿勢を強調する」ゼレンスキー大統領の姿勢が優先され、中国による仲裁が拒まれた場合、中国としてはプランBとして【ロシアに対して、戦争継続のための支援を投入して戦争を長期化させ、欧米各国に対ウクライナ支援を継続させて、中国・台湾情勢における対中圧力にかけるリソースを一気に減少させて、台湾併合に向けた準備を行う】という選択をするかもしれません。

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