3月29日、ゼレンスキー大統領が習近平国家主席に対して、キーウへの訪問要請を行ったことが大々的に報じられました。中国サイドの動きに世界の注目が集まっていますが、習主席はどのような決断を下すのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、考えうる中国政府の反応と、彼らの思惑を考察。さらに訪問要請を断った場合に中国が直面する事態を解説しています。
ゼレンスキーの勝負手。習近平は「キーウ訪問要請」を受けるのか
「中国は混乱に満ちた国際情勢を落ち着かせ、平和をもたらすために仲介の任を受け入れる」
習近平国家主席がロシア訪問を終えた後、政府の外交部隊の人たちが口々に語った“覚悟”です。
「ロシアによるウクライナ侵攻に端を発したロシア・ウクライナ戦争の泥沼化を受け、国際経済が大きなダメージを受け、特にグローバル・サウスと呼ばれる途上国が被害を受ける中、その“救済”のために中国が立ち上がるのだ」という覚悟から、2月18日に王毅政治局員がミュンヘン安全保障会議で「中国はロシアとウクライナの仲介をする準備がある」と表明しました。
その後、2月24日には12項目からなる停戦案をロシア・ウクライナに示し、3月20日からは習近平国家主席の訪ロカードを切って、直接プーチン大統領に中国を仲介役に指名するように迫りました。
報じられているように、3日間に及んだ習近平国家主席の訪ロで語られた内容は、プーチン大統領にとっては形勢の逆転ともとることが出来る内容、つまりロシアと中国の力関係の逆転にも思えましたが、なぜかプーチン大統領はご満悦で、中国に仲介の労をとってもらうことにも前向きな姿勢を示しています。
今回の訪ロおよびロシア・ウクライナ戦争の仲介役という観点において、あえて足りなかったことがあるとすれば、当初予定されていたゼレンスキー大統領との“オンライン会談”が成り立たなかったことでしょう。
「もしかしたらモスクワからキーウに飛ぶという電撃訪問があるかも…」という期待もありましたが、習近平国家主席の訪ロ時に岸田総理がキーウ訪問をしたこともあってか、ウクライナ入りもオンライン会議も見送られました。
また面白いことに、ウクライナ政府からは特段、習近平国家主席の訪ロについてのコメントがなかったように思います。
複雑怪奇な国際関係で成功を収めてきた中国
しかし、今週に入って、【ゼレンスキー大統領が習近平国家主席に対してキーウ訪問を要請した】という情報が入ってきました。
「やはりその手を打ってきたか」と感じていますが、「これに中国がどのように返答するかによって、中国の狙いが見えてくるのではないか」と非常に関心をもって動向を追っています。
そして中国がどのように返答するのかによって、今後のウクライナ・ゼレンスキー大統領の動き方にも大きな影響を与えることになります。
ちなみにこれまでの中国の立場と言えば、内政不干渉の原則を貫き、他国に対する政治・外交的な介入は避けてきました。それは自国の国内問題に口出しされたくないという願いの裏返しでもあります。
中国の海外進出は、これまで経済的な利益の追求が主目的であり、それが複雑怪奇な国際関係においては成功を収めてきたと言えます。
その最たる例が、中東において分け隔てなく経済的な関係を結び、どの国ともよい関係を築いてきた方針です(それが3月10日のイランとサウジアラビア王国の関係修復に帰結した一因と考えられます)。
しかし、3月に入って本格化したロシアとウクライナの仲介努力は、これまでの中国の外交方針を根本から変えるものであると表現することが出来ます。
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