メンツ丸つぶれ。中国・習近平がゼレンスキーの「キーウ招待」を断れない理由

 

中国とウクライナ間に既に存在する対話のベース

紛争調停には多種多様な“当事国・当事者”が存在するため、一筋縄ではいかぬことが多いのですが、停戦を条件に、もし中国がウクライナの戦後復興の主導権を迅速に担うことを約束するようなことがあれば(実際に12項目には数値的なコミットメントはないものの、中国側のオファー内容に含まれている)、身の安全が確保されたら、キーウを電撃訪問し、ウクライナ側の“本心”を聞き出したうえで、ゼレンスキー大統領と習近平国家主席が握手するようなシーンが世界に配信されたら、中国の音頭でロシアとウクライナの停戦協議が再開されるという大金星を世界にアピールできることになります。

ロシアによるウクライナ侵攻直前までは、実際に習近平国家主席とゼレンスキー大統領の直接的なオンライン会談も開かれており、両国の経済関係の深化について話し合い、合意した経験もありますので、状況こそ違いますが、対話のベースはすでにあると見ることも可能でしょう。

訪問要請への返答内容を探る中国が今、行っていること

では中国側は、それに加えて何を獲得したいと思っているでしょうか。

1つは「一旦停戦し、北京や上海で3者会合を開くことに合意する」というNext Stepの提示です。

これは心情的には難しくても、物理的には実現可能かと考えます。ゼレンスキー大統領は徹底抗戦を訴えているものの、同時にどこかでこの戦争を止めなくてはならないことも重々承知であり、どこかでプーチン大統領と差しで話し合う必要性を認識しています。

その背景には、戦争が長期化することにより、国内のリソースが奪われていき、かつ夏以降のNATO諸国からの支援が見通せない中(特にアメリカ)、振り上げた拳を下すための大義名分を模索し始めています。

もともとロシアによるウクライナ侵攻当初は、ゼレンスキー大統領から停戦の呼びかけを行っていましたが、その後の戦況の激化と次々と明らかになる実行者不明の大虐殺が明るみに出るにつれ、退くに退けない状況に陥り、停戦の機運を一旦封じ込め、徹底抗戦に舵を取ったという背景があるため、再度、停戦の話し合いの場に戻すきっかけを誰かが提供する必要があります。

それを今、中国が提供することで、中国に対する国際イメージの改善を図り、かつインドに主導権を奪われがちなグローバル・サウスの主導権を取り戻したいとの思惑もあるようです。

そのためには第2の要素である「習近平国家主席への謝意を明確に引き出せるか」というポイントにかかってきます。

これについては、すでに両国からの謝意が述べられていることと、ロシアによるウクライナ侵攻以前から、習近平国家主席はプーチン大統領を親友と呼び、ゼレンスキー大統領については、友人と呼んで協力関係を深めていた基盤がありますし、ロシア・ウクライナ双方と友好関係があって、直接影響力を及ぼすことが出来るという特徴もありますので、自然とロシア・ウクライナ双方からの期待も高まっています。

プーチン大統領とゼレンスキー大統領双方が掲げた拳を下させ、何らかの妥協案を捻りだすには、かなりの労力が必要となるでしょうが、現時点でその大任を果たせる国、そしてリーダーは恐らく習近平国家主席だけかもしれません。

カギはそれをいかにロシア・ウクライナ双方に意識させ、かつ欧米とも中ロとも距離を置くグローバル・サウスの国々(第3極)の支持を獲得できるかでしょう。

ウクライナへの訪問要請に対する返答内容を探る中、今、そのサウンディングを各国で行っていると聞いています。

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