メンツ丸つぶれ。中国・習近平がゼレンスキーの「キーウ招待」を断れない理由

 

訪問が実現した際、どのような落としどころが存在しうるのか

そしてその上で3つ目の要素である「ポスト・ウクライナの世界を描く際に、中国の明確な役割を定義できるか」というポイントに明確なYESが得られるかが、ウクライナ訪問を決断するにあたっての重要なカギになると思われます。

習近平国家主席のウクライナ訪問要請に対する返答期限があるのかどうかは分かりませんが、国内の共産党直轄の研究院をはじめ、綿密な分析が行われているようです。

ところで仮に訪問が実現した際、どのような落としどころが存在しうるでしょうか?

いろいろと聞き、そして分析内容を見て、議論する中で見えてくるラインは【NATOの東方拡大にウクライナが合意しない代わりに、ロシアからの継続的な脅威に応えるべく、中国がウクライナの保護を確約する】【停戦が成立したら、迅速にウクライナおよびロシアの戦後復興に中国がコミットする】【ウクライナの産業の復興および農業の復興を助け、穀物・金属などの産品の購買を保証する】といった内容ではないかと考えます。

もし5月に予定されている総選挙でエルドアン大統領が勝利して、政権が継続されるのであれば、その実現をトルコと共に行い、インドやインドネシア、そして南ア、ブラジルやアルゼンチンなどの中南米諸国も巻き込んで、包括的な復興と経済発展のためのスキーム作りを行うことも視野に入っているようです(もちろん、そこには欧米諸国や日本の入るスキは与えないようですが、アメリカや英国という例外は別として、支援を申し出る欧米諸国とその仲間たちについては、コミットメントのスペースを与えるのではないかと推察します)。

訪問要請に「NO」を突きつけた中国を待つ状況

ここまでの内容からは、習近平国家主席のウクライナ訪問を早期に実現すべきという方向になってくると思いますが、もし訪問要請にNOを突き付けたらどのような状況が待っているでしょうか?

1つ目は【欧米諸国とその仲間たちから、ここぞとばかりに、「中国による仲裁の申し出はやはり本物ではなく、何か隠れた意図があったに違いない」という非難を浴びる】ことでしょう。

そうなってしまうと、中国国内の反習近平分子が活発化し、それにより兼ねてから非難されている一帯一路に隠された債務の罠が拡大非難され、そしてグローバル・サウスの支持を失うという負のスパイラルに陥ることが予想されます。

2つ目は【友好国ウクライナも失うことに繋がる】可能性です。

これまで、中国政府およびウクライナ政府双方の印象では、不可分のパートナーという表現が返ってきますが、その良好な友好関係にひびが入り、その隙間に欧米諸国がさらに入ってきて、ウクライナが欧米に完全に取り込まれ、対立のラインがさらに東側に移動することに繋がります。それは中国もロシアも絶対に避けたい事態と思われますが、仲介を申し出ておきながら、ロシアには赴いたのに、ウクライナには赴かないということであれば、中国による調停は成立せず、かつ今後、仲介役としての中国という出番がなくなることにもつながります。

中東やアフリカ、中南米などで欧米のコミットメントが薄れたすきを狙って勢力圏の拡大を図るという中国のお家芸を、この場合、欧米に奪われることになってしまいます。

これは今後の中国外交の拡大を狙う場合、避けたい事態ですし、いずれ台湾情勢にピリオドを打たなくてはならない時に、ウクライナから外交的な攻撃を受けかねないことになってしまいます。

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