メンツ丸つぶれ。中国・習近平がゼレンスキーの「キーウ招待」を断れない理由

 

高めの球を条件として投げつけてきたウクライナ

一つ目の要素は「中国が提案する停戦を通じて、ウクライナにとって有利な条件を引き出せるか否か?もしYESならどのような内容になるか」という内容かと考えます。

2月18日にミュンヘン安全保障会議で王毅政治局員と話したクレバ外相は、中国側の仲裁に向けた動きに謝意を示し、キーウに持ち帰り即座に検討すると約束しました。それを受けて、ゼレンスキー大統領も前向きなコメントを寄せ、24日の12項目提示後は、中国の仲介案を検討のテーブルに乗せています。

しかし、武器供与を進める欧米諸国およびNATO事務局が行った中国が持つ意図への嫌疑の表明と非難を目の当たりにし、“とりあえず”は中国の姿勢を評価し、感謝したうえで、ウクライナが停戦協議を受け入れる条件を並べたてました。

その内容は「ロシアが侵攻したウクライナ全土を取り戻すこと」と「ロシア軍のウクライナ領からの完全撤退」を含みますが、それは2014年以前の世界に戻ることを意味するため、調停協議を行うためとはいえ、高めの球を条件として投げつけてきた印象です(ここでは、ロシアによる戦争犯罪の糾弾や国連憲章の尊重といったマストアイテムはあえて除いています)。

中国は習近平国家主席の訪ロの準備段階でロシアサイドにウクライナとの協議内容を伝えていたそうですが、ロシアサイドの反応については分からないものの、訪ロを実行しているということは、恐らくプーチン大統領側に話し合う用意があったと推測することもできます。

今、プーチン大統領から伝えられた意図がウクライナ側に伝達され、それを受けてゼレンスキー大統領の「受け入れ準備が整った」という発言に繋がっていると思われます。

中国がどこまで辛抱強くシャトル外交を繰り返すかがカギ

二つ目の要素は「ゼレンスキー大統領と習近平国家主席の直接協議において、中国からの仲介案への変更提案を示し、中国サイドがそれを用いてプーチン大統領への説得材料に使ってくれること」でしょう。

ロシアサイドとしては、聞くところによると、現状での凍結(クリミア半島の実効支配とウクライナ東南部4州の帰属)を受け入れる準備があることを中国に示し、停戦合意後のウクライナへの“特別作戦の実行”は行わない旨を中国に提示したそうですが、もしそうだとすると確実に協議は平行線をたどることとなり、調停が成り立たない可能性が高まります。

ここでカギとなるのが、中国がどこまで忍耐強くモスクワ―キーウ間のシャトル外交を繰り返し、両国にとっての落としどころを探ることが出来、そしていかに他国(ここではNATO諸国)に横やりを入れさせないかです。

3月に入ってから3月10日のイランとサウジアラビア王国の和解や、孤立を深めるミャンマー内戦の調停申し入れといったように仲裁・調停役としての姿をアピールしていますが、紛争調停および和平協議という観点では、残念ながら中国政府の経験は浅いと思われるため、ロシア・ウクライナ問題のような船頭が多いケースでは難航が予想されます。

ただ、他のケース同様、中国とロシア、中国とウクライナの間には、元々は経済ベースではありますが、良好な関係が存在し、中国初の空母「遼寧」の取引に際しては、欧米諸国からのクレームをものともせず、ウクライナは中国との間でディールを成立させた“信頼の基盤”があるため、仲裁・調停が成り立つ可能性も否定できません。

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