メンツ丸つぶれ。中国・習近平がゼレンスキーの「キーウ招待」を断れない理由

 

プーチンから正式に仲裁を要請された習近平

ここで話をゼレンスキー大統領から習近平国家主席へのキーウ訪問依頼に戻しましょう。

もしこの申し出に習近平国家主席および中国政府がYESという回答をした場合、それはどのようなimplications(意味)を持つでしょうか?

一つ目は【中国が本気でロシアとウクライナの仲裁を試みようとしているサインと受け止めることが出来る】ことです。

先日、行われた訪ロについては、以前、触れたとおり「早すぎてもだめで、遅すぎてもだめ」とかなり入念に熟考を重ねて設定されたタイミングでの実施だったと言われています。

王毅政治局員に観測気球を挙げさせ、約1週間後の“開戦から1年”となる2月24日に12項目からなる“素案”を両国に提示して反応を見たうえで、自らの3期目を確実にする全人代の閉会後すぐに習近平国家主席自らが、プーチン大統領からの要請に応えるかたちで訪ロしました。

3日間に及んだモスクワでの首脳会談では、中国側にとっては「ほぼ100点満点の内容」と評価させるような結果を収めたと言われていますが、その一つが【プーチン大統領からの正式な仲裁要請】であったようです。

訪ロ前はこの“要請”を引き出すことが出来れば、習近平国家主席はそのままキーウに向かって、ゼレンスキー大統領にも同じことを迫るのではないかと考えていましたが、岸田総理の訪問時期との重複、仲裁案へのウクライナの反応の内容、欧米諸国に与える影響・インパクトなど、いろいろな要素を踏まえ、キーウ訪問もオンライン会議も行われていません。

なぜ中国は「キーウ訪問要請」の対応に苦慮しているのか

ウクライナ訪問やオンライン会議が実現しなかった理由として、安全性への懸念以外に、一説では中国の仲介案に対するウクライナ政府側の反応を見て「まだ機が熟していない」との判断を下したと言われていますが、今週に入って、ゼレンスキー大統領が中国政府に対して習近平国家主席のキーウ入りを要請したということで、中国側は対応に苦慮しているようです。

それは「ゼレンスキー大統領とウクライナ政府は、中国による仲裁を受け入れる用意があるということなのか。それともただ話を聞いてみたいという程度なのか。それともロシアと中国の間に亀裂を入れようとする欧米諸国の入れ知恵なのか。真意がまだわからない」というように、ウクライナ側の真意を測りかねているようです。

以前、習近平国家主席の訪ロを行う決め手として「確実に成功すること」を挙げましたが、これはウクライナ訪問にも(そしてまた話がずれますが、台湾への武力侵攻にも)当てはまります。

異例の第3期目に入って権力基盤は盤石と思われがちな習近平国家主席と体制ですが、依然、国内で全く無風というわけではなく、アメリカとの関係を緊張させていることには少なからず非難がある中、その非難をはじき返すために再び外交フロントに積極的に撃って出る以上は、失敗は一切選択肢に入っていません。

今、王毅─クレバ外相ラインなどを通じて仲介案に対する反応を探り、習近平国家主席に対する安全対策の徹底、そして“外交的成果のドラフト案”について協議していると聞きますが、まだ中国側は訪問要請に対する正式な回答を保留しているようです。

この習近平国家主席によるウクライナ訪問は、中国にとって意味することも多く広いですが、それは同時にウクライナ政府とゼレンスキー大統領がどのような姿勢を今後取るのかという分水嶺になりうる重大な決断になります。

まず、ウクライナ側の検討材料を見てみましょう。

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