ちなみに、マーケティング的な観点を述べておけば無料プランでの機能を削減してきたEvernoteに対して、新参者のNotionはフリープランの機能強化によって大幅にシェアを伸ばしてきました。しかし、そのようにしてフリーミアムに拡大するだけではビジネスはままならない、という点はすでに(速すぎる歴史から)理解されていたのでしょう。
そこに登場したのがAIです。そのAIの開発にNotionがどれだけコストを投下しているのかはわかりませんが、「AI機能を使いたいなら追加でお金を払ってね」という構図には無理やりな感覚がありません。言い方を変えれば、フリーミアムに慣れ切っているユーザーにとっても「わざわざお金を払う理由」をうまく作り出せていると言えます。
これまでのデジタルノートツールが行ってきた、機能を部分的に使えるフリープラン、拡張的に使えるプレミアムプランという切り分けにおいては、ユーザーは「部分的に使えればいい」となってしまって、ツールにお金を払うことに動機づけを持ちません。しかし、AIという「新しい機能」であればまだツール利用に対するパラダイムが確立されていないので「まあ、そういうものか」という感覚でお金を払う人は一定数出てくるでしょう。
圧倒的な成長で無料ユーザーを獲得し、そこからAI利用によって「課金」(最近の意味で使っています)を促す。非常に優れた構図がそこにあるような気がします。
閑話休題。Evernoteがそこまで高いものではない、ということを確認した上で、さらにEvernoteのAI機能も私は気になっているので、Evernoteから離れて別のツールに移行しよう、という気持ちはほとんどありません。
一つにはEvernoteに蓄えた情報が多く、それを別のツールに移行させることの手間が気になる点があります──(メルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』2023年5月22日号より一部抜粋)
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