日米韓のサミット開催の少し前、8月13日には日豪の軍事的な「円滑化協定」(合同軍事演習時の軍人の出入国手続きの簡素化など)が発効した。これまで米豪と日米という別々の2国間安保体制だったのが合体して日米豪の3か国の安保体制になっていく動きが進んでいる。これは、8月18日の日米韓サミットで、日米と米韓が日米韓に合体していくのと同じ流れだ。
日米豪はインドも入れて中国包囲網として「クワッド」を形成し、8月11日からは豪州沖で4カ国の定例のマラバール軍事演習を行っている。インドはまだクワッドに参加しているが、BRICSの一員として中露との関係を深めている。
インドは、BRICS内で親米的な存在ではあるものの、米国と疎遠になる傾向だ。日米韓と日米豪の2つの3カ国同盟ができていくことは、クワッドからインドが抜けて韓国が入ってくる感じの流れでもある。だが韓国は、日豪よりも中露敵視の度合いが少なく、中国との経済関係も緊密だ。
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豪州は、保守系のモリソン前政権時代(2018-22年)に、中国との経済関係を本気で断絶する敵視策をやり、米英豪の中国敵視網AUKUSに加盟したり、中国が豪州の石炭や大麦を輸入しなくなったりした。だが、これによって豪州経済は打撃を受け、外交関係も失敗し、中国だけでなくインドネシアもAUKUSに反対し、インドネシアと中国が結束してしまった。
2022年5月の総選挙でモリソンが辞任し、その後の今の労働党アルボ政権は、中国敵視したがる米国との安保関係を表向き保ったまま、中国との経済関係を改善していき、中国は石炭や大麦の豪州からの輸入を再開した。
● China’s renewed appetite for Australian coal disrupts Asia flows
● Australia should forge closer relations with China
韓国も豪州も日本も、安全保障を米国に依存しているので米国の中国敵視策に付き合っているが、その裏で中国との経済関係を良好なものにするという、裏表のある国策をとっている。
米国は従来、日韓豪の表裏のある対中政策を黙認してきたが、これからは容認しなくなっていく可能性が高い。米国は、自国の業界と日韓などに対して半導体製造装置の中国の輸出を規制させている。
中国は中長期的に、この経済制裁を乗り越えて自国内や非米側での半導体調達を増やしていく。中国との関係を切った日韓など米国側の方が半導体業界の縮小という失敗に直面する。
● Australia invites China’s new foreign minister to Canberra, sees ‘no downside’ in Wang Yi’s return
ロシアとの経済関係を断絶させられ、石油ガスが不足して経済破綻が続いているドイツなど欧州は、米国との同盟関係を続けていると経済を自滅させられる先例を示した。今後は、日韓豪などアジア側の同盟諸国が、中国を相手に同じような目にあわされていく。
中国もロシアも、米同盟諸国にとって脅威といえるほどの存在でないのだが、脅威の分析からして米同盟諸国の専門家たちは米国から洗脳歪曲させられ、まっとうな判断ができなくなっている。
脅威でないものを脅威だと言って敵視する大間違いの連続をやらされ、細かく管理されて自滅させられていく。米国の隠れ多極主義が巧妙に機能している。
● ‘Extreme’ US-China rivalry could be ‘disastrous’ for global economy: Singapore’s Lawrence Wong
この流れがどんどん進む前に、米国金融が破綻してくれたら対米従属できなくなって良いのにと、4.2%から4.3%に上がった10年もの米国債金利を見ながら祈っている。
(無料メルマガ『田中宇の国際ニュース解説』2023年8月22日号より一部抜粋・敬称略)
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