僕が年をとったら…語り明かそう「思い出話」を
ここに一つの音源がある。1976年に滝沢洋一とマジカル・シティーが、ロビー和田のプロデュースで「僕が年をとったら」という曲を録音した時のレコーディング風景(NG集)である。
そこには、出だしのタイミングを間違える青山純、カウントをミスった新川博、爆笑する伊藤広規、メンバーの失敗に呆れる牧野元昭、ヘッドフォンをし忘れる滝沢洋一などが記録されており、メンバーそれぞれの性格や関係性を垣間見ることができて面白い。
何度もNGを繰り返す新川に苛立つ滝沢、そこへ青山がドラムで「カツ、ドン!」(カツ丼)と音を鳴らして新川や伊藤、牧野らを笑わせる。滝沢がヘッドフォンのし忘れで怒られたかと思えば、直後に青山がヘッドフォンをし忘れて和田に怒られる。
そんなドタバタを繰り返しながら完成したのが、下記の音源「僕が年をとったら」のデモ・テープである。
未発表のまま48年も眠っていた楽曲には、のちに世界を驚かせるミュージシャンたちの息づかいが聞こえてくる。
これらの音源は、まだ二十歳そこそこの若者たちが、今までにない“新しい音楽”を、いわゆる「ヘッドアレンジ」の手法で作ってゆく過程が良くわかる貴重な資料と言えるだろう。マジカルのギター、牧野は語る。
牧野「一般的なスタジオワークのような<アレンジャーの書いた譜面をただ弾くだけ>という仕事と違って、曲を覚えながら自分たちのパーツを自分たち自身で作ってゆく作業は、とても楽しく創造的でした。当時の音源を何十年ぶりに聴き返してみて、まだまだ技術的には未熟でしたが“ヤル気”が漲っており、若い頃の仕事として誇りを持てるものだと思います」
その牧野は、マジカル自然解消後も著名なジャズミュージシャンや和楽器奏者らとのライヴセッションを経験し、1986年には米バークリー音楽大学へギター留学した。同大を卒業後、ヴァンが住む米国シカゴに移住しグラミー賞受賞ブルース・ハープ奏者シュガー・ブルーのバンドにギタリスト・音楽監督として14年も在籍。約18年間のアメリカ生活を経て2004年に帰国し、現在は活動拠点を沖縄に移して日本国内を中心にライヴ活動を続けている。
マジカル・シティーのメンバーたちは、結成から48年を経た今も、それぞれ“新しい音楽”を創造し続けている。
エピローグ〜新たに判明した「シティ・ポップ最大の謎」
ところで、本連載Vol.1で紹介した、1976年にロビー和田プロデュースで録音の滝沢洋一とマジカル・シティー「東京音楽祭(マリーナ・ハイウェイ原曲)」だが、大きな謎が隠されていたようだ。
シティ・ポップの名曲として今や世界的人気を誇る楽曲、山下達郎アレンジの吉田美奈子『恋は流星』(シングル盤およびアルバム『Twilight Zone』所収、1977/RCA)とほとんど同じ歌詞が使われていたことが判明したのである。つまり、滝沢は吉田の作詞した歌詞を見てこの曲を作り、のちに歌詞を差し替える必要が生じて『レオニズ』に「マリーナ・ハイウェイ」(作詞は小林和子)という曲名で収録したのだ。「マリーナ〜」のメロディは、吉田美奈子の詞によって生まれたものだった。
吉田美奈子の「恋は流星」といえば2017年12月、テレビ東京系の人気番組『YOUは何しに日本へ?』で、スコットランド人男性がこの曲のシングル盤を求めて来日した様子が放送されたことが話題となった。それほど海外で人気の高い曲であり、シティ・ポップブームを象徴する一曲でもある。
どのような経緯で吉田の詞が滝沢側に手渡されたのか、その詳細はまったくわかっていない。吉田本人に取材したところ「(滝沢の)名前も存じ上げないし、詞を依頼された記憶もありません」とのことだった。
ちなみに、吉田を「(アルファと原盤制作契約を結んでいた)東芝EMIではなく、RCAからレコードを出そう」と説得した張本人はロビー和田だったという。
シティ・ポップ最大の謎、その真相や如何に。
マジカル・シティーが期せずして掛けていた“シティ・ポップの魔法”、その謎解きはまだ始まったばかりだ。(完)
本連載を、滝沢洋一、マジカル・シティー 青山純、新川博の3氏に捧げます。
Special thanks : (順不同)
滝沢家・鈴木家の皆様
粟野敏和
伊藤広規
新川博
牧野元昭
村上ムンタ良人
荒木くり子(伊藤広規office)
青山家の皆様
岡村右
天下井隆二
庵豊
金澤寿和
松永良平
濱田髙志
小澤芳一(TOKYO CITY POP)
森田聰美(Sony Music Publishing)
ALFA MUSIC
ありそのみ
ヴァン・ポーガム
植竹公和
裏窓のブログ
カイエ(2R again)
髙井順子
エーテル@今年もラジオ
吉田美奈子
山上ジュン
小林清二
(本文内、敬称略)
連載記事アーカイヴ
● 【Vol.1】奇跡的に発見された大量のデモテープ
● 【Vol.2】デモテープに刻まれていた名曲の数々
● 【Vol.3】達郎も秀樹も気づかなかった「真実」(本記事)
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