「日本の伝統的な家族制度を揺るがす」と反発の自民
一方、この判決に対して自民党は強く反発した。
1950年の最高裁判決では、尊属殺に対する厳罰は「人倫の根本であり、人類普遍の原理」とされており、この見解を支持する議員も少なくなかった。
違憲判決がくだされた後も、一部の議員は急激な法改正に慎重な姿勢を崩さず、既存の規定を維持しようとした。また、保守的な支持層への配慮から、伝統的な価値観を反映した法律を残そうとする動きもあった。
「親殺しの罪を軽くすることは、日本の伝統的な家族制度を揺るがす」という主張に加え、「国民に選ばれた我々が作った法律を、たかが役人に過ぎない者が覆すとは何事か」という感情的な反発も根強かった(*1)。
特に当時は、自民党政権が永久に続くと信じられていた時代であった。一方、社会党などの野党は刑法200条の削除を求める法改正を提案し、法務省は200条を残しながらも「4年以上の懲役」という条文を追加する案を推奨した。
しかし、自民党はこれを一貫して拒否し、法改正は見送られることとなった。この結果、200条は法として存在しながらも適用できない状態が続いた。
最終的に、200条が削除される法改正が行われたのは1995年のことで、その時の首相は社会党の村山富市氏であった。
依然として「伝統的家族観」尊重の立場を維持する自民
尊属殺人罪は、封建時代の尊属殺人重罰の思想や「家」制度と深い関連を持つ。そしてこの規定の廃止は、封建的な家族観からの脱却を意味した。
1947年に制定された日本国憲法第24条は、個人の尊厳と男女平等の原則を宣言し、家族の理念型を封建的な「家」の制度から婚姻家族の制度に大きく転換させた。
同時に尊属殺人罪の廃止は、この憲法の理念をより完全に実現する一歩となる。尊属殺人罪の廃止は、伝統的な家族観から、より平等な家族関係への移行を示す一つの象徴となる。
しかし、自民党は依然として伝統的家族観を尊重する立場を維持しており、これは現在の日本の家族政策にも影響を与えている。これは、自民党が「家族は、愛情と信頼で結ばれた、国民生活の基盤を形成する最小の単位」と考えていることに基づく。
自民党は法律婚を家族の基本的な形態として尊重する立場を維持し、例えば、嫡出子と非嫡出子の相続権に関する議論では、法律婚の重要性を強調する意見が見られる。
また、自民党の改憲草案には「家族は、互いに助け合わなければならない」という条文があり、家族内での相互扶助を重視する姿勢がある。
朝ドラ『虎に翼』が描いた尊属殺人罪の廃止についての問題は、決して古臭いものではなく、現在も続く日本の自民党支配の一端を表している。
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■引用・参考文献
(*1)大石格「あまりの悲劇が最高裁を動かした」日本経済新聞 2020年2月1日
(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2024年10月5日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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