口先だけに過ぎなかった野田立憲代表の「政権交代」
「新しい政治どう築くか」とは大きなテーマで、とても私一人で答え切れることではありませんが、とりあえずここが大事だと思うことを3点だけ申し上げたい。
まず大きな柱の第1に、野党、とりわけ野党第一党は旗を高く掲げなければなりません。何の旗かと言うと「政権交代」の旗です。立憲民主党の野田佳彦代表は選挙戦を通じて確かに「政権交代」を何度も口にし、ある場面ではそれをフリップに大書して掲げて見せましたが、私は彼のこの発言は口先だけだと思います。
野党第一党が本気で政権交代を果たそうとするなら、道は2つに1つで、1つには単独過半数を獲得できるだけの候補者を揃えるのは当然として、その当選を確実にするだけの万全の備えをすること。そうでなければ、全ての小選挙区で野党候補を一本化して与党を圧倒することです。野田さんはそのどちらにも取り組まずに、口先だけで政権交代を言ったにすぎませんでした。
名古屋大学名誉教授の後房雄さんはイタリア政治の研究家です。日本とほぼ同じ時期にほぼ同じような選挙制度を導入したイタリアで、1994年の最初の選挙では「メディア王」と呼ばれたベルルスコーニというトランプの先輩のような人が率いた保守連合が勝ったけれども、余りにも寄せ集めの政党連合だったために2年で行き詰まり、96年の2回目の選挙ではイタリア共産党の後身である左翼民主党が中心となった中道左派連合「オリーブの木」が政権を奪い、そのまた4年後の3回目の選挙ではベルルスコーニが再び返り咲いた。
このように、保守側もリベラル側も政党連合を組んで、日本と同じような選挙制度の下で最初から「政権交代のある政治風土」を耕して行ったのがイタリアです。
後教授は書いています。
小選挙区制に相応しい選挙戦略は何かといえば、核心は2大勢力が政党連合によって全ての小選挙区で候補者を統一することである。中選挙区制や完全比例代表制の時代が長く多党制が定着していた国が小選挙区制に転換した場合、ただちに2大政党制が確立することは困難。しかし、事前の政党連合によって、首相候補とマニフェストを統一した上で全小選挙区で候補者を統一できれば、機能的には2大政党制と同様の役割を果たすことができ、有権者が政権選択をすることが可能になる。このイタリアの政党の戦略的行動様式は、日本の政党、特に野党に最も欠けているものである。
(『政権交代への軌跡』花伝社 2009年刊)
ここで「特に野党に欠けている」と言うのは、98年7月の参院選で自民党が大敗し橋本龍太郎首相が辞任し、小渕恵三政権に代わり、自由党(小沢一郎代表)、公明党(神崎武法代表)との「自自公」連立が実現。以後、自由党は離脱するが自公連立は今日まで続いているのに対し、野党側にはそういう政党連合の探求が欠けていることを指している。
もちろん、この選挙制度の下でも野党第一党の単独過半数獲得ということは起こり得るので、2009年9月の鳩山政権がまさにそうだったが、それはむしろ稀というか偶然の重なり合いのような形でしか実現しない。やはりイタリアに学んで毎度、政党連合を組んで政権交代を期すのが本筋ということです。
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