ここ数年で一気に加速した感のあるAI(人工知能)技術。仕事の場だけでなく、プライベートでもAIを活用している方も少なくないのではないでしょうか。いまの子供たちが大人になって働く時代には、さらに進化した社会になっていることでしょう。このAI時代にあって「子育て」の仕方に悩む方も多いようです。メルマガ『久米信行(裏)ゼミ「大人の学び道楽」』では、大学の教授でもある著者の久米信行さんが、「AI時代の子育て方法」について読者からの質問に回答しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:AI時代の新しい子育て法について
オトナの放課後相談室:AI時代の新しい子育て法について
Question
このたび結婚して家庭を持つことになりました。
いずれは子育てをすることになると思いますが、自信がありません。
これからAIが全盛になると思うのですが、そうすると、ほとんどの仕事が奪われてしまうような予感がします。そんな近未来に、子供にどんな知識や技能を身に着けさせてあげれば、親としての責任を果たせるかわからないのです。
今までのように、記憶力中心で、はじめから答えが決まっているようなルーティンを学ぶような受験勉強は意味がなくなるような気がしています。
私立高校の無償化などはありがたいのですが、ただ受験校に入学できたとしても、それが子供のためになるかどうか自信が持てないのです。
これからの子育ては何を重点に考えればよいでしょうか?
(東京都/27歳/男性)
久米さんからの回答
お受験勉強の前にお稽古に力を入れ。古今東西の本物アートをシャワーのように浴びせ、スマホやパソコンを与える前に自然の中で親子仲良く一緒に遊ぶ。
おっしゃる通り、これから生まれる子供たちが、成人して社会に出る頃には、今とは全く違う社会になっているでしょう。大学で教えている私が言うのも何ですが、大学で教えていることの多くが役に立たなくなる可能性も高いのです。
それでも、お受験ブームは止まらないでしょうし、なるべく早くパソコンに触れてプログラミング教育をさせたり、子育てを楽にするためスマホを与えたりする親も減ることはないでしょう。
しかし、私が今から子育てをするとしたら、まったくの逆張りです。昔ながらのお稽古中心で、デジタルよりアナログを重視、自然の中で、知識より感性や美意識重視の子育てをするでしょう。
お受験勉強の前にお稽古を
私は明治大学で20年近く若者と接してきました。その経験から「すぐやる技術」「やり抜く技術」「認められる技術」の三部作を書きました。どんなことでも良いので、これをやっていたら誰が何と言おうと幸せを感じられること、それについては誰にも負けないことを見つけるように説いてきました。好きなことを語り出したら止まらなくなるようなオタクこそが、これからの日本の宝であると、私は信じているからです。
しかし、受験戦争を勝ち抜いてきた「親から見れば好い子」ほど、成績こそ良くても、大好きなものが見つかSNSでで毎週(できれば毎日)一年間発信する「自分らしい投稿」を続けられなかったのです。
なぜだろう?と悩んでいる時に、私が尊敬する脳研究の世界的な権威・豊田誠さんが明解なアドバイスをくださいました。豊田さん曰く、それは「幼い頃にお稽古を続ける子供が減ったから」だとおっしゃるのです。
ここで言うお稽古を具体的に説明するならば「3年以上、肉体的な反復練習を繰り返すことで、約3年後に『脳が発火』して、自動的にその行為ができるように習熟すること」です。
お稽古の中身は、武道やスポーツでも、音楽や書道でも、なんでも良いそうです。とにかく14歳ぐらいまでに「脳が発火」した経験を持たないと、そうした回路が脳で失われていくそうです。
そういえば、私も時代遅れの珠算を続けておりましたが、3年もすると、目の前に見えないそろばんを思い浮かべて暗算ができるようになりました。また、自己流ですが、ギター練習を続けていたら、楽譜を見たら自然に指が動くようにもなりました。
こうして「脳が発火」してできるようになった小さな特殊技能と成功体験は、それ自体が仕事に役立っているわけではありません。
しかし、退屈な反復練習でも、3年続ければ「あの感覚」に到達できることを身体が覚えていることが大切なのです。
そのおかげで、新しいこと、それも興味がないことや苦手なことを、次々に「すぐやる」こと「やりぬく」ことができるようになりました。そして、いつしかそれらが楽しくなり、人からも「認められる」ようにまでなったのです。
ですから、どんなことでも良いので、幼い頃に、様々なお稽古にチャレンジさせてみてください。その中で、一番子供が自分に合っていると思うお稽古を、どんなことでも良いので長く続けさせてあげてください。
間違えても、親がやらせたいことを、無理やり押し付けたりはしないでくださいね。
できれば、親も一緒に新しいお稽古に挑戦して、一緒に楽しく学ぶのがおすすめです。こうした場合は、子供の方が上達が早くなる可能性も高いのですが、そのことで、逆に親子間コミュニケーションも良好になるはずです。
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