プーチンに妥協を迫る材料にはならない「関税措置」
すでにご存じの通り、ロシアとウクライナの停戦協議において、ロシアのプーチン大統領に対しても“関税措置”および“追加制裁”の可能性を交渉カードに用いようとしているトランプ大統領ですが、それが果たしてプーチン大統領に妥協を迫る材料になるかは不透明です(恐らく、答えはNOです)。
ただ、トランプ氏自身は、いろいろな人に聞いてみても同じなのですが、アメリカが戦争することや直接関わること(米軍の直接介入を伴うもの)に全く関心を持っておらず、今後、トランプ氏がディール・メイカーとして関わるロシア・ウクライナ戦争や、イスラエルとパレスチナ、ハマス、ヒズボラ、シリアなどの間の武力紛争の“解決”にあたって、アメリカのリソースを使うことなく、見栄えの良いところだけ取って、諸々の処理を関係国に求めて、“アメリカは国際紛争から手を退く”という3つ目のグループが推す姿勢が強くなることが予想されます。
その兆候がすでに表れているのが、ガザ情勢を巡る“後始末”です。バイデン政権最終盤に成立し、発効したイスラエルとハマスの戦闘一時停止と人質の解放を含む停戦合意は、解釈の違いや小競り合いは起こったものの、今のところ順調に進められていると思われます。
すでにガザ地域内で南部から北部に向けた数十万人単位でのガザ市民の移動・帰還が始まっていますし、人質の解放も進められています。このまま戦闘の休止が継続し、人質の解放が順調に進み、“恒久停戦”に向けた交渉に移行できれば良いのですが、今回の停戦実現に貢献したトランプ大統領自身が、今後の中東地域でのデリケートな安定を一気に崩しかねない主張を行っています。
それは、トランプ大統領がヨルダンとエジプトに求めた“パレスチナ人の受け入れ”拡大の要請です。
すでに隣国ヨルダンは150万人強のパレスチナ難民を国内に受け入れていますが、トランプ氏は追加で同数以上のパレスチナ人を受け入れることを求めていますが、すでに受け入れのキャパシティーを越えているとして、拒否する姿勢を明確にしています。
またエジプトに対してもパレスチナ人の受け入れを求めていますが、パレスチナ人の受け入れにおいて、これまでにハマス系の要員がエジプト国内に流入し、政敵であるムスリム同胞団とハマスの密接な関係に苦慮しており、受け入れには非常に後ろ向きです。
イスラエル国内のユダヤの力などの極右勢力は、トランプ大統領の提案が自分たちの要求に100%合致するものとして大歓迎していますが、イスラエル軍が“ガザ停戦”の背後で進めるヨルダン川西岸への攻撃と、政府によるユダヤ人入植地の拡大の施策と相まって、「これはパレスチナ人というアイデンティティを根本から崩壊させる企てであり、決して許容することはできない」と、ファタハはもちろん、アラブ諸国からも激しい非難が浴びせられています。
「アメリカは直接コミットしないが、周辺国が問題解決にあたることに対しては支援を行う」という方針と方向性がここで具現化しているように見えます。
果たしてどこまでこの提案が実行に移されることになるのかは分かりませんが、もしトランプ大統領が“××の一つ覚え”のようにアラブ諸国に対して関税措置の脅しを交渉カードに用いることになれば、アラブ諸国の反発は避けられず、そしてすでにアメリカ依存度が下がっている現状に鑑みて、スルーするか、対抗措置を取ることになると思われます。
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