中露と欧州は“崩壊の危機”に直面。なぜトランプが「大失敗」しても日本の安全保障は保たれるのか?

 

起こり得るトランプ政権の中東地域からの撤退

その背景にあるのが、アラブ諸国と中ロとの多方面での連携の強化です。すでに中国とサウジアラビア王国、イラン、UAEなどは、戦略的パートナーシップ協定を締結していますし、ロシアも各国と安全保障に関する協力関係にあることから、アメリカを失うことによるロスはゼロではないにせよ、さほど大打撃をこうむるようなことにはならないという計算が働くのではないかと思われます。

ただトランプ政権にとっても、アメリカ政府にとっても、戦略上、中東地域やアラブを失うことは出来ず、特にイスラエル防衛の観点からは、イスラエルの周辺国との良好な関係と、アラブとイランの接近を阻む必要があります。

トランプ大統領が再三バイデン政権の非難を行うネタの一つが、中国に中東における影響力を奪われたという事例です。

イランとサウジアラビア王国の外交関係の樹立や、パレスチナの諸勢力の結束を高めるディールをことごとく中国に水面下で実行され、アメリカの面子を潰されただけでなく、反イスラエルのアラブとイランを作り出すことに繋がるとの恐れが高まったのは、まさに中国がアメリカを出し抜き、勢力圏に侵入した事案と捉えられています。

ちなみに中国の世界戦略のバックボーンになっている方針は【米国の力を後退させる・弱体化させるものは中国にすべて有利に働く】というものであり、まさに中東における影響力の伸長と友好的な関係(互恵関係)の強化は、中国のこの方針を見事に実現しているものと分析することが出来ます。

アメリカのトランプ政権が、過度にイスラエルの擁護をすればするほど、中国の中東における影響力は高まり、ロシアの態勢の立て直しにも寄与し、そして場合によっては、アメリカとイスラエルの分離も進めることに繋がりかねないというのが、中国の狙いだと感じられます。

それはヒズボラとイスラエルとの間の停戦合意の内容が履行されず、期せずしてイスラエル軍の緩衝地からの撤退が遅れていることや、「懸念の払しょくのため」と題して、イスラエル軍がヒズボラの施設を引き続き攻撃していることは、いつレバノンが再び発火点になるかわからないという懸念を増大させることになりますが、これまでのところ、本件に対してトランプ政権が何かしら前向きな動きをとる気配は感じません。

実際に、停戦監視を担うアメリカとフランスの取り組みはすでに機能不全であることが明らかになっており、それゆえにイスラエルの横暴が増長しているというのが大方の印象のため、不安定極まりない隣国シリアの窮状と相まって、その鎮静化に役立つことができないアメリカ(と欧州各国)の中東におけるプレゼンスの著しい低下が覗えます。

これにより、何が起きうるでしょうか?

一言でいうと【中東地域からのアメリカの撤退】です。イスラエルのネタニエフ首相は必死になってアメリカを中東に再度介入させ、泥沼に引きずり込もうと策を練るでしょうが、アラブ諸国がアメリカを今後受け入れることが無くなった場合、アラブとの衝突なしにはアメリカは地域への介入ができないことになりますので、実際にはアメリカの撤退がさらに加速することに繋がると考えます。

中東から撤退したら、その代わりに世界戦略において、トランプ政権はしばらく中国とアジアへのコミットメントを高めると同時に、カナダとメキシコを名実ともに傘下に組み込んで一大経済圏を確立させ、それをアジア地域とオセアニア(オーストラリアとニュージーランド)と連結させることで自らの独自の経済・影響圏を築く方向に進むのではないかと考えます。そして環太平洋で互いに補完し合い、一大勢力圏が築かれていくものと見ています。

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