「実は綿密に計算されたトランプ流交渉術」との見方も
ただすでに1期4年、大統領として務め、周辺にYESパーソンばかりと言われつつも、優秀な人材を揃えている政権のはずですし、Rule of Lawを外交の全面に押し出してくる国ですので、明らかな国際法違反に当たるようなことを平然と言ってのけるとは考えづらいのではないかと推測します。
そこで2つ目の見解が出てきます。
それは【これはあくまでも超高めのボールを投げておいて、ディール・メイキングを行うための道具】という見解です。
常識的に考えて受け入れられるわけがなく、さらに各国から瞬時に激しい非難を浴びることを重々承知で荒唐無稽な提案をし、そこからじわりじわりと内容を和らげて落としどころを探り、どこかの段階で“相手”がOKした時点で、合意の手柄を独り占めにするという戦略を実行しているのではないかと思われます。
交渉・コミュニケーション術においては、一つのスタイルとして分析もされ、実際に援用するケースも多いのですが、最初に到底受け入れることなどできないような内容を示し、NOと言わせたうえで、「ではどのような条件なら受け入れられるのか?」と相手に迫って、その内容や主張に合わせて条件を少しずつ穏やかなものに変え、相手の受け入れ可能な限度ギリギリを狙う手法です。
ただこの際、一つ確実なのは、提案した側は実は何も失っておらず、しっかりと欲しいものはすべて手に入れているということで、ついでに評判まで勝ち取っていきます。
個人的には、トランプ大統領と政権が選択している手法は、この戦略なのではないかと思います。
ネタニエフ首相と並んで行った記者会見時に、アメリカのメディアでさえショックを受けるような内容の提案をぶち上げ、記者からの質問にも臆することなく堂々と回答していますが、同盟国を含む各国から大非難を浴びたのを確認して、次の日には一旦本件については一切コメントも回答もせずに自分の面子をしっかりと保つ方策を取っています。
そのプロセスにおいてトランプ大統領とその周辺が注意深く見ているのは「どの国がどのような非難を行っているか」という内容であり、特に同盟国と目される国々や、地域における親米とされる国々の反応に神経を尖らせ、それらの内容をもとに提案に微調整を繰り返そうとしているように見えます。
オリジナルの提案は、トランプ大統領は絶対にイスラエル贔屓だと信じたいネタニエフ首相にとっては笑いがこらえ切れないほどの内容だったと思いますので当たり前にYESと答えますが、大事なのはそこではなく、英国やフランス、そして中東地域における親米国と言われるサウジアラビア王国やUAEが受け入れ可能な条件を探り当て、ガザ地域の復興とパレスチナの扱いについての落としどころについて、米・イスラエル以外の国からYESを引き出そうとするのが目的でしょう。
ゆえにこれから矢継ぎ早にいろいろな微調整が加えられ、私たちの目には発言内容の不一致を指摘したくなり「やっぱりトランプ大統領は…」と愚痴りたくなるかもしれませんが、実は綿密に計算されたトランプ流交渉術とも言えるかもしれません。
今のところまだテーブルには乗っていませんが、YESを得るためにギリギリのライン近くまで来たと感じたら、もしかしたら“追加関税措置の発動”をチラつかせて、ラスト・ワンマイルを埋めようとするかもしれません。
ただ正直なところ、人の生命と生活がかかる提案に、追加関税措置といったチープな手法は使ってほしくないですが。
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