「ガザ所有」の提案で遠のいたウクライナ戦争の停戦
またトランプ大統領が掲げる外交的な成果を挙げるためには、アメリカはもちろん、中ロとも話すことができる国を失うわけにはいかず、その観点から、サウジアラビア王国やUAEとの関係があまり悪化しないように気を遣っているようにも見えます。
実は【半年以内に停戦を実現する】と公言しているロシア・ウクライナ戦争の“停戦協議”の前提となる、プーチン大統領との直接的な首脳会談と協議の機会をトランプ大統領が探っており、その際、両方とのチャンネルを持つサウジアラビア王国やUAEがその会談場所として挙がってきています。
ガザ情勢の仲介を共に行うカタールでの開催という説もあるのですが、カタール政府は今回のトランプ大統領の“提案”に激怒しており、失望していることから、現時点ではあまり近寄りたくないという姿勢を打ち出しています。時間が経てば状況は変わるかもしれませんが、近々、そのロシアとアメリカの協議をカタールがホストすることは考えられないのではないかと、いろいろな話をもとにして感じています。
もし、今回の“ガザをアメリカが所有し、パレスチナ人を強制的に移住させる”というトランプ提案の内容が薄まることがないと、サウジアラビア王国などが考えた場合、米ロ首脳会談のホスト役を引き受けてくれず、いつまでたってもトランプ大統領はプーチン大統領と会えないという状況が生まれるかもしれません。
まさにTime is on Putin’s sideと言えます。
トランプ大統領はメディアを前にしていろいろと発言し、ロシア・ウクライナ問題の解決にも自信をのぞかせるものの、実際にはそのための糸口を掴めていないと思われ、ロシア側との協議がまだスタートしていない状況です。
一旦停止していたウクライナへの軍事支援の再開や、レアアースの提供を条件に、アメリカがウクライナへのコミットメントを強化するというディールをチラつかせて、プーチン大統領を直接交渉のテーブルに就かせようとしていますが、現時点ではそのどの手段も功を奏していません。
その理由の一つが“ウクライナのレアアース”の価値は日本円にして17兆円規模と言われていますが、そのほとんどが、実は現在ロシアが実効支配しているウクライナ東南部に集中しています。
様々な分析結果を見てみると、そのうち15兆円規模の権益をすでにロシアが手に入れているともいわれており、実際にはゼレンスキー大統領の一存でどうにかできるものでもないことが明らかになってきています。
レアアースを押さえ、制裁を前にしてもエネルギー資源を豊富に持ち、中国やインド、グローバルサウスの国々という“エネルギー資源の買い手”と“食料などの売り手”が確保されているロシアの現状に鑑みると、「トランプ大統領の面子を立ててやることはできるが、ロシアとしては停戦を急いでいない」という分析をすることも可能で、時間も状況もプーチン大統領に有利な状況が展開されているように見えます。
もし、今回のガザ所有に係る提案がなく、トランプ大統領のリソースがロシアとウクライナの停戦に注がれ、本気でロシアを引きずり出すためにウクライナへの支援を拡大してプレッシャーをかけることができていれば、米ロ首脳会談が近々開催され、何らかの合意が出来ていたかもしれませんが、今回の提案でアメリカは国際社会を敵に回し、さらなる孤立を深めることになったため、少なくともロシアとウクライナの停戦の実現は遠のいたのではないかと見ています。
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