国際社会からの非難は重々承知。「米国がガザを所有する」という衝撃的なアイディアをぶち上げたトランプの真意はどこにあるのか?

 

「秩序の守護者」の立ち位置を失うことになるアメリカ

アメリカ合衆国だけを見ると、実はこの状況を憂う必要は全くなく、十分にAmerica Firstの余力はあるのですが、トランプ大統領を支える共和党の支持層は、今後、影響力を維持拡大するためには、トランプ大統領が公約通りにロシアとウクライナの停戦を成し遂げ、中東に安定を取り戻し、ユダヤ系支持者にも、アラブ系の支持者にも、それなりの満足を与えることができるディールが必要と考えているため、内容がどのようなものであったとしても、トランプ大統領の陣営としてはいち早く何らかの成果を出さないと、2年後、そして4年後、そしてその後の安定と安心を得ることはできないとの危機感に駆られ始めています。

荒唐無稽な提案や、口を開けば関税措置という滑稽な状況は、そのような焦りから出されていると見られており、それがまたデリケートなやり取りを要する外交・安全保障におけるディール・メイキングにおいてもプレッシャーをかけ、望むような成果を出すことが出来ていないという、悪循環を生み出しているように思います。

関税をカードに用いることで、メキシコやカナダというGreat Americaを構成する国々との間にもテンションが高まっていますし、ガザに関する荒唐無稽な提案は欧州の同盟国を遠ざけていますし、発動の有無は明らかになっていないものの、対中関税(10%プラス)の発動と中国からの報復関税の応酬という状況は、アメリカを巡る国際情勢に不要な緊張を加え、本来、アメリカが行使しなくてはいけないはずの影響力を十分に発揮できない状況を生み出しているように見えます。

欧州各国は同盟国アメリカに対して警戒心を募らせ、もし欧州に対して追加関税を発動するようならば容赦なく報復関税を発動すると明言するような事態ですし、NATOを巡る緊張感や、欧州の存在意義にもなっているグリーン・ニューディール政策に、トランプ政権が背を向けたことで、複次的な緊張感が高まっています。

そのような中、中ロは確実に仲間を増やしにかかり、欧州にも再度食指を伸ばしてきていますが、ロシアに強い警戒感を抱くポーランドは軍事的な衝突も覚悟したうえでロシアと対峙しようとし、他のEU諸国と距離を置き始め、欧州の結束が揺らぎ始め、実はプーチン大統領の思うつぼになってきているように見えます。

またアラブ諸国はロシアとの距離を縮め、中国との経済的な(戦略的な)結びつきを再確認して、独自の立ち位置を確立しようと努め、予測不能なアメリカから適度な距離を取ろうとしています。

どのような戦略を内に秘め、混乱する世界においてリーダーとして振舞うつもりなのかは全く見えてきませんが、迅速に誤解を解き、緊張感を緩め、そしてビジョンを示すことが出来なければ、アメリカはさらなる孤立の道を歩み、秩序の守護者としての立ち位置を、トランプ時代に完全に失うことになると考えます。

America First、そして実際にはTrump Firstを貫くトランプ大統領の方針は、アメリカの国際情勢へのコミットメントと、秩序の維持という役割を弱める方向に進むと思われますが、軍事力(特に海軍力)・経済力を併せ持つアメリカが国際秩序の維持を諦めたら、世界は確実に分断を深め、海洋の安全は失われ、そしてグローバル経済の恩恵がすべて奪われる状況に直面しなくてはならなくなります。

就任演説において「私が最も誇りに思うレガシーとは、平和をもたらし、人々を一つにまとめる存在となることだ。それが私の望む姿だ」と語ったトランプ大統領ですが、就任から3週間ほどで、そのレガシーの要素はすべて失われつつあり、代わりに生み出そうとしているのは、複雑に絡み合った混乱の世界と、分断が深まる対立の世界になりつつあります。

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