「1980年5月の再現」は起きるのか?
まず、1980年5月19日に、野党が内閣不信任案を出します。大平は余裕で否決できると思っていたようですが、細かなハプニングが重なった結果、なんと自民党の非主流派、つまり清和会福田派と河本(三木)派が衆院本会議を欠席してしまいます。その結果、内閣不信任案は「可決」となります。大平は翌日になって衆議院を解散、前回からわずかに8ヶ月しか経たない中で、解散総選挙になってしまいます。
面白いのは、ギリギリのところで中曽根康弘は、非主流派を見捨てて大平につき、これが回り回って将来の中曽根政権の実現につながることです。それはともかく、自民党内には激しい怨念が渦巻いていました。大平総裁はなんと、自分を追い詰めた非主流派を最初は公認しなかったのです。ですから、ある種の流れができていたら保守分裂もあり得た状況で、実際に公示後も選挙運動は一緒にできず「分裂選挙」の様相となっていました。
ところが、激しい選挙戦のまっただ中の6月12日に大平総理は心臓疾患で急死してしまいます。ショッキングな訃報に接して、自民党内は「大平総理の死をムダにするな」というスローガンで、なんと「一致団結」してしまいます。しかも、「大平殉職」ということで有権者の感情論は一変、選挙戦は「大平の弔い合戦」というムードになり、結果は衆参同日選での自民党大勝となりました。
大平の後継は同じ宏池会の鈴木善幸で、その2年後には5年間にわたる中曽根政権となります。政策の中身は的外れでしたが、少なくとも大平の死によって、自民党政権はハッキリ延命を実現したのでした。
2025年7月「衆参同日選挙」の可能性
さて、翻って現在、2025年の状況について考えれば、何よりも思い浮かぶのは「ハプニング解散」の可能性です。そして、何よりも今年は参院選の年ですから、まさに1980年のような「衆参同日選」になる可能性があります。
何よりも、衆議院に関しては与野党が逆転して少数与党になっています。ですから、仮に不信任案が出たとすると、「野党の一部が積極的に石破支持に回る」ということが起きない限りは可決されてしまいます。
特に危険なのが予算審議です。45年前の1980年の場合も、ハプニング解散の導火線となったのは予算審議でした。しかも、対立点は大した問題ではなかったのです。そう考えると、年収の壁問題で大ゲンカ状態の今回は、何が起きてもおかしくないとも言えそうです。
政局シナリオ(1)「決められない政治」がさらに悪化
では、仮にそうなった場合のシナリオですが、現状では、
「自民党はさらに議席を減らす。その一方で、野党の側には決定的な求心力となる勝者は出ない。参院も自公が減らして衆院の状態に接近する」
という中で、
「自公は、より厳しい少数与党になる。敗戦責任を問いたいが、こうなると総理の座が罰ゲームになるので、結局は石破続投」
という可能性が出てきます。そこで、石破氏としては何とか寝技を使って政権を延命するのがゲームのルールになります。そうなると、各野党と是々非々の駆け引きが大変になり、決められない政治という状況が続きそうです。
また、野党の構成としても、現在とは構成割合が代わり、国民民主とれいわが主導するかもしれません。そして、この両者は支持票の性格からして「フルタイム与党入りはできない」ということになりそうです。(次ページに続く)