トランプの所業を見れば一目瞭然。米中対立の記事から習近平の「ズルさ」や「危険」を伝えるフレーズが消えた理由

 

中国の「体質転換」に不可欠だったASEANとロシアの存在

この8年間、中国は貿易の多元化を進め、対米貿易への依存体質を改善しながら貿易のパイを拡大することに努めてきた。

事実、2024年には中国の物品貿易総額は43兆元(1元は約20円)を超え、課題だった対米貿易依存度も2018年の19.2%から2024年の14.7%へと減少させてきたのだ。

この中国の体質転換に不可欠だったのは、東南アジア諸国連合(ASEAN)であり、「一帯一路」沿線国であり、ロシアだった。

なかでもロシアは、エネルギー不足の中国にとって貿易の相互補完の観点からも相性が良く、伸びしろも期待できた。

だからこそ中露の蜜月は揺るがない。

中国の習近平国家主席は5月7日からソ連・大祖国戦争勝利80周年記念式典に出席するためロシアを訪問。欧米メディアが新しいローマ教皇を決める秘密選挙「コンクラーベ」に熱狂している裏で、ウラジミール・プーチン大統領とがっしり握手を交わした。

日本の報道では、ロシアに急接近する北朝鮮をめぐり「中露関係は微妙」との見立てもあったが、そもそも次元の違う話だ。

中国のテレビは習訪露の前後に、抗日戦争で貢献のあった旧ソ連の空軍兵士の特集を組み、両国の絆の深さを繰り返し報じた。

当然、首脳会談の中身は、中露関係の良好さと同時にアメリカに対するけん制のメッセージとなった。

習近平はトランプ政権を「現在の国際社会における一国主義という逆流及びパワー・ポリティクス的覇権行為」と批判。「中国はロシアと共に、世界的大国及び国連安保理常任理事国としての特別な責任を担い、共同で正しい第二次世界大戦史観を発揚し、国連の権威と地位を守り、第二次世界大戦の勝利の成果を断固として守り、中露両国及び多くの発展途上国の権益を断固として守り、手を携えて平等で秩序ある世界の多極化及び普遍的に恩恵をもたらすインクルーシブな経済のグローバル化を促進していく」と語った。

また「中国はロシアと共に、時代が与えた特別な責任を引き受け、世界の多角的貿易体制及び産業・サプライチェーンの安定性と円滑性を維持し、両国の発展と振興の促進、国際的な公平と正義の維持に、より大きな貢献を果たすことを望む」と呼び掛け、プーチンも、「断固として揺るぎなく露中関係の発展を推進し、互恵協力を拡大することは、ロシアにとっての戦略的選択だ」と応じた。

「断固として揺るぎない露中関係」があれば、ロシア・ウクライナ戦争めぐる協議で安易な妥協は避けられ、中国も対米関税戦争で右往左往することを避けられる。

中国に145%の関税が課されると発表されて以来、中国からアメリカへと向かう輸入品は激減した。これがアメリカ国内で価格に反映されるまで6週間から9週間かかるとされるが、コンテナ港ではすでに作業員の大量解雇が始まっているとも伝えられる。

米中ともにダメージを避けられない無益な戦争だが、この戦いが一定の落ち着きを見せた後も、このデカップリングの流れは止まらないかもしれない、との予測が中国側に出始めているのは注目すべきことだ。

アップルのスマホやグーグルがない世界など、日本人には想像すらできないかもしれない。しかし、いまの中国では誰も何も困らず生活できる。この現実を多くの日本人が理解できていないのだ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年5月11日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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