ロシアが対ウクライナ攻撃のギアを上げられたウラ事情
今週(7月1日)行われたプーチン大統領とマクロン大統領との電話会談の内容は、ロシアが当事者となっているロシア・ウクライナ問題についてではなく、イスラエルとイランの軍事衝突に対する懸念と、アメリカ軍による宣戦布告なきイラン攻撃が明らかに国際法に反することで、イランが核開発を急ぎ、中東の緊張が高まることを懸念して具体的な対応と協力について話し合われたと伝えられています。
フランスは欧州、そしてNATOのコアとしてロシアによるウクライナ侵攻に真っ向から反対し、対ロ経済制裁およびウクライナへの軍事支援も行っていますが、その対立を棚に上げても、ロシアとの協力を選んだことは、イランを巡る情勢への懸念の大きさと、ロシアとフランスという、イラン核問題に政治的・外交的な解決をもたらすための技術的なオプションを握っている両国が、現在のホットイシューに対する影響力の拡大を狙ったものであると考えられます。
異常な熱波に襲われるフランスのカウンターパートは、その天候に擬えて「フランスが直面している問題はまさにスーパーホットであり、急ぎ対応を講じないといけない要件であると考えるので、敵味方を選ぶ猶予はなく、まずは動いて緊張を解くことが先決だと考える」と表現して、フランスのコミットメントが、対ロ非難・対ウクライナ支援ではなく、イランを軸とした中東地域の混乱と緊張の緩和に重点が置かれたことを示しています。
もちろん、これはプーチン大統領にとっては渡りに船と言え、イラン問題に対応している間は、少なくともフランスはウクライナ問題に深くかかわってこず、恐らくフランスからの軍事支援も滞ると予想できるため、今週に入って一気に対ウクライナ攻撃のギアを上げています。
その半面で“イランへの影響力”というカードを上手に用い、のらりくらりとフランスなどからの要請を交わしつつ、欧米諸国の目をイランとイスラエルに釘付けにし、対ロ攻撃に関わる余裕をなくすことに成功しているように見えます。
プーチン大統領とマクロン大統領にスポットライトを奪われてはならないと、トランプ大統領もウクライナから距離を置き、イラン情勢とガザ情勢に重心を移して“成果”を取りに行こうとしています。
7月2日にはイスラエルのネタニエフ首相に「カタールとエジプトがまとめた停戦案を受け入れよ」と要請し、それと並行してSNSを通じてハマスにDeal(取引)せよというメッセージを送って、ちょっと強引にまとめにかかっていますが、その背後でイスラエルはいろいろとハマスに難癖をつけて、当初より予定していた対ガザ軍事作戦を激化させて“力による強制”を突き付け、一方的な力を見せつけた上で、自国に圧倒的に有利な条件でのディール・メイキングを行おうとしているように見えます。
最近、イスラエルの当局と話す機会があった際に言われたのが「行けるところまで徹底的に破壊し、抵抗することが死を意味することを見せつけなくてはならない。そうすることでイスラエルは国家と国民の安全を確保できるし、それしかない。また徹底的な打撃は、シリアやレバノンといった周辺国にも明確なメッセージを送ることになるだろう」と言う内容ですが、あまり報じられないものの、この内容はアメリカのウィトコフ氏にも共有されているようです。
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